鶴屋南北闇狂言 櫓の正夢
(つるやなんぼくやみきょうげん・やぐらのまさゆめ)
星川清司
(ほしかわせいじ)
[芸道]
★★★★
♪大映および日活で、活躍した映画脚本家。「新選組始末記」「眠狂四郎シリーズ」「座頭市シリーズ」などを手がける。小説家転身第1作の『小伝抄』で直木賞を受賞。
歌舞伎を、ちゃんと最後まで見たことはないが、なぜか歌舞伎界を描いた作品は、戸板康二さんの「中村雅楽」シリーズ以来、なぜか読まずにはいられなくなる。この作品では、歌舞伎ファンにはおなじみの渡辺保さんが解説をされているのも嬉しい。
鶴屋南北が、あの名作「**」を描くに当たって、こんな創作秘話があるかもしれないと思わせる、星川さんの技も見事。
物語●歌舞伎作者の鶴屋南北は、しのつく雨の中で、一人の浪人者を見かけた。人気盛りの三世菊五郎にも劣らぬ男ぶりながら、双眸には暗澹たる光、屍のように蒼ざめた顔色…、たやすく忘れられる顔立ちではなく、不吉めいた予感、胸騒ぎを感じた。身なりは、着古した黒羽二重の裾は花色で、帯は献上博多、落し差しにした長刀は鞘に象嵌散らしの意匠を凝らした業物で、浪人暮らしに似合わぬ洒落者に見えた。この浪人が、作者南北の興味に火を付ける…。
目次■なし