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まいご櫛

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まいご櫛まいご櫛
(まいごぐし)
本間之英
(ほんまゆきひで)
[捕物]
★★★★☆

男だとピンとこないことだが、櫛は女性にとって大切なものらしい。とくに江戸の娘にとっては。

「櫛を拾う」ことは、「苦死を拾う」につながり、道に落ちていた櫛を拾うことは忌むべきことだそうな。
また、櫛は女性が四六時中身につけるものだけに、櫛をもらうことは、その男のものであることを宣言しているようなものらしい。

こうしたことを頭に入れておくと、この作品の凄みと面白さが理解しやすい。

 どうしても、宗十郎に櫛を作ってもらわなければならないのだ。
 新次郎は脳裡にさまざまな思いが一斉に蜂起して押し寄せた。眩暈をおぼえそうだった。
 その眩暈の中で、
(おれが人差し指をくれてやれば、宗十郎さんは櫛を作ってくれる)
 そうすれば美弥さんは治るかもしれない、その一点だけが、熱く燃える心棒のように脳髄から一直線に全身を貫いていた。
 
(『まいご櫛』P.127より)

物語の主人公の新次郎の設定が独創的であり、面白さを増幅している。正直にいえば、櫛職人と聞いたときには地味な印象を受けたが、読み始めてみると意外や意外、主人公の予想もしない行動や意外な著名人の登場など、ド派手なつくりになっている。これ以上はネタばれにつながるので、詳しくは触られないが…。

呪われた櫛の謎を追う新次郎。彼には武士を捨てて櫛職人になった過去がある。その訳も気になるところ。

描かれている時代は、赤穂藩主浅野内匠頭長矩が、高家吉良上野介義央に城内で斬りつけた事件が発生する直前のころ。主人公の新次郎の知り合いということで、赤穂藩士たちが登場する。新次郎はかつて、小石川の堀内源太左衛門道場で剣を習ったという設定。

主な登場人物
新次郎:櫛職人
六兵衛:櫛挽き店『十三や六兵衛』の主で、新次郎の親方
卯之助:新次郎の兄弟子
弥七:新次郎の弟弟子
永次:新次郎の弟弟子
辰吉:新次郎の弟弟子
おとみ:六兵衛の一人娘
お房:六兵衛の女房
おはる:卯之助の女房
甚三郎:打物問屋和泉屋のあるじ
美弥:甚三郎の娘
小弥:甚三郎の妻女
清兵衛:和泉屋の番頭
松造:和泉屋の手代
佳世:和泉屋の大おかみ
富永元繁:七百石の旗本。小姓組組頭
富永元康:元繁の父
瑞枝:元繁の妻
平蔵:富永家の老僕
里尾:旗本神谷忠左衛門の一人娘
惣右衛門:日本橋富沢町の半襟屋『村井屋』
伊太郎:『村井屋』の若旦那
宗十郎:木挽町の蒔絵櫛職人
おまつ:宗十郎の店の斜め前に住んでいる老婆
生島新五郎:山村座の大看板
幸助:新五郎の付き人
奥田兵右衛門:赤穂藩武具奉行
堀部安兵衛:赤穂藩留守居役
堀内源太左衛門:小石川の一刀流道場主
細井広沢:柳沢保明の家臣
徳蔵:料理屋「七軒茶屋」の主人
おきよ:徳蔵の娘
木曾屋友五郎:入船町の材木問屋
おせん:友五郎の娘
蒔田金吾:南町奉行所与力
常泉:町医者
顕仙:町医者
紋蔵:木挽町一帯を縄張りとする目明し
常三郎:日本橋一帯を縄張りとする目明し
梅吉:常三郎の手先
又八:常三郎の手先
庄太:常三郎の手先
木村喜平治:北町奉行所同心
朔太郎:下谷の元結職人

物語●打物問屋和泉屋の主の甚三郎は、一人娘の美弥が許婚の伊太郎から蒔絵の櫛をもらってから、様子がおかしくなったと、櫛挽き店『十三や六兵衛』の主の六兵衛に相談にやってきた。櫛が原因ではないかと考えた六兵衛と櫛職人の新次郎は、伊太郎が櫛をどこで作らせたのかを調べ始めた…。

目次■第一部 蒔絵がささやいた/第二部 暖簾のうらがわ/第三部 憤怒のはて

カバーフォト:アマナイメージズ
カバーデザイン:中原達治
時代:元禄十四年三月十二日
場所:新石町、池之端仲町、日本橋富沢町、下谷広小路、鉄砲洲、宮永町、小石川、木挽町、永代寺門前町、入船町、永代橋、湯島一丁目、采女ヶ原、茅町、小石川御門内、呉服橋御門内、高砂町、安楽寺、ほか
(祥伝社・祥伝社文庫・667円・2012/03/20第1刷・409P)
入手日:2012/03/02
読破日:2012/04/08

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