新潟樽きぬた 明和義人口伝
(にいがたたるきぬた・めいわぎじんくでん)
火坂雅志
(ひさかまさし)
[政治]
★★★★☆
♪明和五年(1768)に新潟湊で起きた、新潟湊騒動(新潟明和騒動)を描いた時代小説。新潟県出身だが、騒動についてまったく知らず、興味深く一気に読めた。
新潟の町民決起の中心になったのが、若いころに京の国学者竹内式部のもとで学んだ、呉服屋の涌井藤四郎。『新潟樽きぬた』は、新潟湊騒動の顛末を藤四郎と彼を慕う芸妓のお雪との恋を絡ませながら描いている。
新潟湊騒動が画期的なのは、確固たる封建制度が敷かれた江戸時代に、わずかの期間とはいえ、町民による自治が行われたこと。長岡藩牧野家が敵役になってしまっているが、「常在戦場」の気風や「礼義廉恥」の信条があることは作中で触れられているので、よしとしたい。
また、本書では、新潟市出身の作者らしく新潟弁を随所に交えて描かれている。藤沢周平さんの後期の作品で山形鶴岡のことばを巧みに交えていったのに通じる長岡弁(選挙運動中に田中真紀子さんが使うことば)にも近くて、口に出してみると懐かしい感じがする。
タイトルの「樽きぬた」とは、新潟の花柳界独特の囃子の一種。小鼓や太鼓の代わりに、酒樽を撥で叩いて拍子を取る。ヒロインのお雪は樽きぬたの名手という設定になっている。
物語●明和五年、かつて北前船の寄港地として栄えた新潟町は、阿賀野川の治水工事の悪影響による不況と天候不順でその面影はなかった。しかし、新潟が主要な財源である長岡藩は、過重な御用金の取り立てを要求する。一部の特権商人は、御用金の上前をはねていた。呉服商の涌井藤四郎をリーダーに、憤る新潟町民は決起した…。
目次■第一章 新潟湊/第二章 廻らし文/第三章 嵐/第四章 涌井大明神/第五章 雪の別れ/あとがき/解説 縄田一男