(へいあんよういでん)
(ひらいわゆみえ)
[平安]
★★★★
♪若き日の藤原道長と、超能力者の少年楽師が、物の怪が引き起こす事件を解決する連作小説。描かれている時代やスタイルは違うが、同じ作者の『五人女捕物くらべ』(講談社文庫)を彷彿させる、肩の力の抜け具合、遊び心が楽しい。タイトルには、妖異とついているが、ファンタジーに近い味わいがある。
藤原道長というと、「この世をば…」と絶頂期に歌った平安時代を通じて最高の権力者のイメージが強いが、この作品で若い頃(中納言時代)ということもあり、そんな傲慢さなど微塵もなく、知的で爽やかな若者として描かれている。彼とパートナーを組んで、物の怪に立ち向かうのが、天才少年楽師・秦真比呂(はたのまひろ)だ。
連作形式の各話のタイトルにも楽器や曲を連想させるものが多いが、各話の中にも必ず、楽器が登場し、それが物の怪と関係することになり、物語は展開する。
登場する楽器は、以下の通り。「花と楽人」篳篥(亀滋)、龍笛。「源頼光の姫」琵琶(阮咸、曙光)。、「樹下美人」笛(大水龍、小水龍)。「孔雀に乗った女」五絃の琵琶。「狛笛を吹く女」狛笛、笙(丹頂)。「催馬楽を歌う男」笏拍子、龍笛。「狛麿の鼓」鞨鼓(狛麿)。「蛙人」笙、篳篥。「象太鼓」大太鼓。「春の館」紅梅の筝。
BGMに雅楽のCDをかけて物語の世界に浸りたい気分。
物語●「花と楽人」摂政・藤原兼家の邸宅で、樹齢五百年を越え、五百桜(いおざくら)と呼ばれる桜の銘木を主役に、観桜の宴が開かれた…、「源頼光の姫」道長は、中宮・定子に使える女房に、琵琶の名手を探していた…。「樹下美人」道長のもとへ使いに来た源俊賢(としかた)の家人が帰路で、骸骨になって発見された…、「孔雀に乗った女」道長の義父・源雅信が大内裏で怪異を感じた…。「狛笛を吹く女」内裏で舞楽の催しがあり、道長の甥・藤原伊周(これちか)が舞人の一人を務めた。そこで、珍しい高麗楽を舞ったが…。「催馬楽を歌う男」公卿達の間で、地方の流行り歌である催馬楽(さいばら)がもてはやされ、あちこちで催馬楽の催が行われた。大いに盛りあがった頃合になると、姿を見せずに何者かが見事な声量で催馬楽を歌い出すということが続いた…。「狛麿の鼓」帝が体調を崩し、ひきこもっているので、中宮は、大層な法力の持ち主と噂される大木成の法師を内裏に招こうかと迷っていた…。「蛙人」四天王寺に安南王の密命を受けて日本にやってきた楽人が滞在していた…、「象太鼓」新年の祝賀の宴席で、大酔いした藤原道隆は、見たことのない大きな獣の皮で作った太鼓はないかと、大声でわめいたところ、…。「春の館」道長は義兄の源俊賢よりある相談を持ちかけられた…。
目次■花と楽人|源頼光の姫|樹下美人|孔雀に乗った女|狛笛を吹く女|催馬楽を歌う男|狛麿の鼓|蛙人|象太鼓|春の館
装幀:新潮社装幀室
時代:一条天皇の御代。永祚(えいそ)二年(990)
場所:二条京極第、六条、土御門、一条第、三条大路、法成寺、下賀茂社、鹿ケ谷、四天王寺、河内国・西唐寺、貴船社ほか
(新潮社・1,600円・00/06/30第1刷・278P)
購入日:00/07/01
読破日:00/08/29