(けつろ・なんりょうななつやひろく)
(はせがわたく)
[伝奇]
★★★★☆☆
♪第二回角川春樹小説賞受賞作。同じく山の民<南稜七ツ家>を描いた『死地』が抜群に面白かったので、期待感をもって読み進める
山の南側に七軒の家を建てて暮らすことから、南稜七ツ家と呼ばれる山の民。戦国乱世の中で、人質や捕らわれ人を敵城から落とす仕事を請け負うようになり、「落としの七ツ」の異名をもつようになる。この特殊な集団の存在がたまらなく面白くて、この作品の魅力の一つだ。
主人公喜久丸は、甲斐と信濃の国境近くにある龍神岳城城主・芦田虎満の嫡男で十四歳の少年。信濃を狙う武田晴信(後の信玄)に唆された叔父の裏切りで、両親と姉を殺され、自身も窮地に陥ったところを、南稜七ツ家に助けられる。
山の民として成長する喜久丸の物語と、南稜七ツ家と武田の忍者集団「かまきり」の異能者同士の闘いの物語が、平行しながら進行する。両者は、物語の後半で巧みにシンクロして、ノンストップ時代アクションとして展開していく。作者の想像力の極みともいうべき、その壮絶なる死闘は、山田風太郎さんの『甲賀忍法帖―山田風太郎忍法帖〈1〉』に匹敵する。期待に違わぬ傑作伝奇時代小説の誕生だ。
北条の初代・早雲の四男で、風魔の忍びを手足のように使う北条幻庵や、信玄の軍師となる山本勘助も登場するので、伝奇時代小説ファンは要チェック。
物語●武田晴信(のちの信玄)は、実父信虎を駿河に追放し、自らが甲斐の国主について一年。信虎に与していた龍神岳城主芦田虎満を攻め落とし、諏訪へ陣を進めるための橋頭堡としようと考えていた。龍神岳城は虎満の実弟満輝の裏切りがもとで落ちる。落城に際して、虎満の嫡男で十四歳の喜久丸は、「南稜七ツ家」の市蔵に助けられる…。
目次■第一章 謀叛/第二章 依頼/第三章 侵入/第四章 追跡/第五章 激突/第六章 喜久丸と楓/第七章 熊/第八章 塩硝/第九章 二ツ誕生/第十章 隠れ里襲撃/第十一章 決闘 不入の森