(すてごいなり)
(はんむらりょう・ほか)
[アンソロジー]
★★★★
♪短編ながら、それぞれの作家の個性が遺憾なく発揮されていて面白い。
「捨て子稲荷」:『かかし長屋』などに通じる、善意と悪意が融合した、スパイスの効いた市井物。
「奴さん」:武家社会の独自性をこの人らしいタッチで描く。
「瞽女の顔」:今まで読もう読もうと思いながら、ボタンを掛け違えたように、縁がなかった諸田さんの作品が読めてラッキー。ちゃんと長編とも付き合いたい。
「手毬」:時代小説に活躍の場を移して大正解の佐伯さんらしい、武家物。
「紅風子の恋」:和製・美女と野獣といったところか。
「逢引」:江戸を感じさせる捕物帳風市井物。
「小便組始末記」:才気を感じさせる。
「弱味」:この人の描く、家康ってホント狸だなぁ。
「やってきた男」:唯一再読になるが、どの短編集に収められていたか思い出せない。爽やかな読後感は相変わらず。
物語●「捨て子稲荷」捨て子稲荷と呼ばれる小さな稲荷の祠の前に、半纏に包まれた嬰児が捨てられていた。四年後、その子どもがかどわかされた…。「奴さん」清四郎は、口入屋から、奥州のさる家中の武士について、江戸と国許を往復する道中に従う仕事を紹介された…。「瞽女の顔」瞽女のお菊は、茶屋で商家の若旦那風の人がよさそうな男と知り合った…。「手毬」碓氷峠を越える、越後高田十五万石榊原式部大輔政永の一行は、浪人に家紋入りのお鎗の穂先を奪われてしまう…。「紅風子の恋」鬼子として家族や周りから疎まれていた勘助は、放浪して兵法家としての自信を得て、武田信玄に仕えることになった…。「逢引」朝次は、紙漉きの仕事を手伝う傍ら、捕物には目がなかった…。「小便組始末記」焼け跡の整地作業をしていた、鳶人足の弥吉は、土の中から金の詰まった茶壷を掘り当てた…。「弱味」徳川家康の家臣の平松金次郎は、眼をしょぼしょぼさせる癖があった…。「やってきた男」鳥羽港に、江戸を目指す千石船・阿波丸が入港し、“はしりがね”と呼ばれる遊女を乗せた小舟が阿波丸を迎え入れた…。
目次■捨て子稲荷 半村良|奴さん 高橋義夫|瞽女の顔 諸田玲子|手毬 佐伯泰英|紅風子の恋 宮本昌孝|逢引 小杉健治|小便組始末記 永井義男|弱味 高橋直樹|やってきた男 白石一郎
時代:「捨て子稲荷」明記されず。「奴さん」明和五年ごろ。「瞽女の顔」明記されず。「手毬」寛保三年。「紅風子の恋」永禄四年。「逢引」明記されず。「小便組始末記」天保五年。「弱味」天正十二年。「やってきた男」明記されず。
場所:「捨て子稲荷」谷中、下谷竜泉寺。「奴さん」駒込、古河、高畠。「瞽女の顔」原宿、沼津。「手毬」碓氷峠。「紅風子の恋」京・妙心寺、躑躅ヶ崎館。「逢引」湯島天神下同朋町、切通町、池之端仲町。「小便組始末記」堀江町。「弱味」新居、小牧。「やってきた男」鳥羽。
(祥伝社文庫・590円・99/07/20第1刷・353P)
購入日:99/07/17
読破日:99/09/25