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花や散るらん

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花や散るらん
花や散るらん

(はなやちるらん)

葉室麟

(はむろりん)
[武家]
★★★★☆☆

一組の夫婦の数奇な絆の物語を描いた武家時代小説『いのちなりけり』の続編。雨宮蔵人と咲弥が赤穂浪士の討ち入りに巻き込まれるというストーリー展開に期待が高まる、葉室版忠臣蔵外伝。

「御自分の心だと思える和歌をお教えください。それまで寝所はともにいたしますまい」と婚儀の夜、言い放ち、寄せつけなかった。形だけの夫婦だった。しかも二人は夫婦となってから故あって離れ離れになった。
 十七年ぶりに江戸で再会したのは、咲弥が仕えていた先代水戸藩主徳川光圀の命によるものだった。
 光圀は小城藩内紛の生証人である蔵人を斬るつもりだった。待ち合わせの場所とした上野寛永寺に現れた蔵人は重傷を負い、咲弥の胸に倒れ込んだ。しかし、この時、蔵人は咲弥との新婚初夜を果たし、おのれの心を表す和歌を示した。

 春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことはいのちなりけり

(『花や散るらん』P.17より)

物語は、絢爛たる元禄時代を舞台にしていて、江戸の豪商石川六兵衛の妻にまつわる〈衣装くらべ〉のエピソードも紹介されていて興味深い。

「雨宮様は衣装くらべなどお嫌いかもしれまへんが、女子はんは贅沢を喜ぶだけではあらしまへん。衣装に誇りや夢を込めて世の中に言いたいことを託すんどす」
 光琳の話に蔵人が、
「なるほど、後学のためじゃ、香也ものぞいてみるか」
と言い出して、香也を連れて見物することになったのである。

(『花や散るらん』 P.77より)

物語の興味は、蔵人と咲弥がどのように赤穂事件に関わっていくかであるが、それは読んでのお楽しみというところ。二人の盟友・僧の清厳も渋く活躍するところが、前作のファンにはうれしい。

また、二人の娘として登場する香也にも出生の秘密があり、物語の鍵を握っている。

主な登場人物
雨宮蔵人:角蔵流柔術道場の道場主
咲弥:蔵人の妻
香也:蔵人と咲弥の娘
清厳:洛北の円光寺で修行している禅僧
おくら:鞍馬の百姓の女
羽倉斎:伏見稲荷神社の神官の息子で神道と歌学に親しみ、国学の研究をしている
中院通茂:公家で咲弥の歌道の師
徳川綱吉:五代将軍
柳沢保明:綱吉の側用人
桂昌院:綱吉の生母
お伝:綱吉の側室
信子:将軍正室
右衛門佐:大奥総取締
公辧法親王:寛永寺貫主で、日光山東照宮輪王寺門跡、天台座主
辧子(なかこ):正親町権大納言実豊の娘で、後に柳沢保明の側室となる正親町町子
正親町公通:朝廷の武家伝奏で、町子の兄
塚田五郎兵衛:柳沢家用人
近衛基煕:関白
進藤長之:近衛基煕の家司
吉良上野介義央:高家肝煎
富子:上野介の正室で、上杉家二代藩主定勝の四女
神尾与右衛門:吉良上野介の家臣
尾形光琳:絵師
北村季吟:幕府歌学方を務める
浅野内匠頭長矩:播州赤穂藩藩主
中村内蔵助:銀座の役人
堀部安兵衛:赤穂藩藩士馬廻役、二百石
奥田孫太夫:赤穂藩藩士武具奉行、百五十石
貫井伝八郎:元参州吉良家家臣で牢人
みつ:伝八郎の妻
大石三平:赤穂藩家老大石良勝の血筋で、一時近衛家に仕えたことがある牢人
松平紀伊守:京都所司代
梶川与惣兵衛:大奥留守居役
庄田下総守安利:大目付
大石内蔵助:赤穂藩家老
お初:神田の飛脚問屋亀屋の女主人

物語●二年前から京の鞍馬の山裾の村に居を構えて静かに暮らしていた雨宮蔵人と咲弥。二人は、将軍綱吉の生母・桂昌院に従一位の叙位のための工作をする吉良上野介と関わり、幕府と朝廷の暗闘に巻き込まれることになる。

一方、播州赤穂藩主浅野長矩は、柳沢保明(吉保)の駒込六義園に招かれ、保明の側室の町子から、吉良上野介が懐が苦しい公家を金で縛って、桂昌院への贈位を朝廷に働きかけているという話を聞き、上野介への嫌悪の念を強く持ち始めた…。

目次■なし

イラスト:中川学
デザイン:関口聖司
解説:島内景二
時代:元禄十三年(1700)二月
場所:鞍馬街道、鞍馬村、仁和寺、広小路新道南側、石薬師通り、洛北の円光院、六義園、本郷湯島台の霊雲寺、慈円山安養寺の塔頭重阿弥、寛永寺、福厳寺、銀座屋敷、京都所司代、江戸城松の廊下、本所松坂町、神田橋御門内、ほか
(文藝春秋・文春文庫・590円・2012/10/10第1刷・308P)
入手日:2012/10/12
読破日:2012/10/20

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