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松林図屏風

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松林図屏風松林図屏風
(しょうりんずびょうぶ)
萩耿介
(はぎこうすけ)
[芸道]
★★★★☆☆

第二回日経小説大賞受賞作。安土桃山時代を代表する絵師・長谷川等伯の半生を描く、長編歴史時代小説。

 信春は虎二と宗宅のやり取りを聞きながら、燃えなかったのならそれはそれでよかったと思った。たとえ狩野であっても、精魂込めた絵が容易く失われてよいはずがない。絵は描き手の熱を帯びてこの世を焼くものだ。この世に焼かれては逆になる。
 
(『松林図屏風』P.24より)

安土城が焼け落ちたという話を聞いた信春のモノローグ。

 これからである。昔、小津屋の主は「この世あらざる絵」と言い、日通は「戦わざる絵」と言った。今描くのは「この国にいた証となる絵」である。いずれにしてもそれを松林の画題で成さねばならない。楓図や涅槃図を凌駕する絵を魂魄の限りに刻まなければならない。
 
(『松林図屏風』P.342より)

晩年の等伯の絵に賭ける思いが伝わってくるシーンである。

この作品が等伯の評伝にとどまらずに、第一級のエンターテインメント時代小説たらしめているのは、等伯の子で不世出の絵師・久蔵にもスポットを当てて描いているところ。

癇が強くて天才肌の久蔵。そのピュアな創作スタイルや恋が、等伯の世俗的なものと対照的に描かれていて面白い。

また、等伯の絵に影響を与える謎の商人小津屋と、狂言回し的に登場する中流貴族の入江義晴の存在が物語に奥行きを与え、不思議な余韻を残してくれる。

主な登場人物
信春:絵師長谷川等伯
宗宅:信春の長男
久蔵:信春の次男
文殊:信春の三男
虎二:信春の弟子
宗易:茶匠千利休
日通:本法寺の僧
さと:日通の従妹で本法寺の賄い
油屋:日通の実家で、堺の豪商
河津五郎左右衛門:堺の商人小津屋
古渓宗陳:総見院開山の僧
狩野永徳:狩野派の総帥
前田玄以:京都所司代
松永永種:連歌師、松永久秀の養子
入江義晴:京都所司代に仕える中流貴族
璃枝:義晴の妻
跡見:入江の上司
桔梗:鷹司家の娘
豊臣秀吉
イクィン:朝鮮の商人

物語●本能寺に宿泊していた織田信長が、明智光秀の軍勢に攻め込まれて、都で見られないはずの戦が目の前で繰り広げられていることに、興奮した信春(後の長谷川等伯)は、身の危険を顧みずに絵を描くことに夢中になっていた。
安土城の襖絵の仕事は信長公に重用された狩野永徳率いる狩野派に独占されていたが、信長が亡くなった後、信春にも出番が回ってくるのではないかと思ったが、わずか十日の天下で光秀は秀吉軍に敗退した。
目論見が外れて落胆した信春は、仕事を求めて堺へ行く。堺では、小津屋の主人から、襖絵に「この世あらざる絵」を描いてほしいと依頼を受ける…。

目次■なし

カバー写真:「松林図屏風」(国宝、右隻部分) 東京国立博物館所蔵 Image: TNM Image Archives
ブックデザイン:鈴木成一デザイン室 西村真紀子(albireo)
解説:縄田一男
時代:天正十年(1582)五月
場所:本能寺、四条高倉本法寺、大徳寺、上京小川、堺、三条西、総見院、四条、蓮華王院、洛北岩倉、前田玄以の屋敷、一条堀川、西陣の橋、東尋坊、七尾本延寺、北野天満宮、祥雲寺、肥前、三条の橋、ほか
(日本経済新聞社・日経ビジネス人文庫・800円・2012/07/09第1刷・365P)
入手日:2012/07/12
読破日:2012/08/08

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