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はだか嫁

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はだか嫁はだか嫁
(はだかよめ)
蜂谷涼
(はちやりょう)
[市井]
★★★★☆☆

「オール讀物」連載後に、単行本刊行はされずに、文春文庫オリジナル。幕末の江戸を舞台に老舗献残屋を背負って立つ女主人のおしのの細腕繁盛記。おしのは、第十二代将軍徳川家慶の寵愛深いお琴の方に気に入られて、大奥に出入りを許される。また、老中首座の阿部正弘とも関わりをもつようになる。

献残屋は「献上品の残り物」を扱うことから名付けられたという。大名は参勤交代の折には、必ず時の将軍に国許の土産を献上し、大名や旗本の家臣は、藩主や上役に進物を差し上げ、御用商人は、出入り先の武家や役所に付け届けを欠かさずといった具合に、江戸市中では年がら年中、献上品や贈答品がおびただしく飛び交っており、贈られたほうは、余分な品を献残屋に売り払って金に換える。江戸ならではの商売といえる。

「あんたは、このあたしが、器量と気立てを見込んで、嫁入り道具も持参金もいらぬ、丸々のはだかで来ておくれ、と迎えたお人。あたしの眼鏡に狂いはなく、今じゃ仙石屋は、あんたというご新造がおらねば立ち行きません」
 おりきの言葉に、苦い顔つきで腕組みしていた左近が、大きくひとつうなずいた。

(『はだか嫁』P.28より)

「はだか嫁」というタイトルを聞いて、「えっ」て感じがした。著者が蜂谷涼さんでなかったら、手を出さなかったかもしれない。島内景二さんの巻末の解説によると、タイトルの「はだか」は身に何も纏っていないことではなく、「嫁入りの時、何の嫁入支度もしないことをいう」意味だそうだ。

「はだかで来ておくれ」と迎えられたおしのは、姑のおりきの見込みに違わず、仙石屋を切り盛りするしっかり者で、知恵も度胸も人並み外れていた。そんなおしのの唯一の負い目は子ができぬこと。夫の運平は、そんなスーパーウーマンのおしのと一緒にいると、息が詰まって目まいがすると、醜女のおみのを外に囲い、子どもまでなす。

この運平の憎めないダメンズぶりが何とも面白く描かれていて、物語のアクセントになっている。

「喜六さん、もう散りたいなんて言わないでくださいね。あの桜のように、しぶとく咲いていてくださいね」
 おしのの言葉に喜六が黙って頭を下げた。

(『はだか嫁』P.149より)

江戸の市井に店を構えながらも、武家とのつながりが深い献残屋。激動の時代前夜の江戸の様子を映すのに格好の舞台かもしれない。

主な登場人物
おしの:献残屋仙石屋五代目のご新造
運平:仙石屋の五代目主人
左近:運平の父で、仙石屋四代目
おりき:左近の女房、運平の実母で、おしのの姑
力平:運平の子で、実母はおみねだが、おしのが引き取って育てる
おみね:運平の妾で、力平の実母
真次郎:運平の弟で将軍家御用達の小間物問屋を営む
おえい:真次郎の女房
喜六:仙石屋の番頭
清助:仙石屋の手代頭
小三郎:仙石屋の手代
彦次:小三郎と同い年の手代
弥五松:仙石屋の手代
又四郎:仙石屋の手代
為吉:仙石屋の丁稚
末八:仙石屋の丁稚
勝太:仙石屋の丁稚
竹蔵:仙石屋の丁稚
おとよ:仙石屋の女中
お琴の方:将軍家慶の側室
藤川:お琴の方様付きの中年寄
邑山:お琴の方様付きの女中
おひさ:おりきの母
おつた:小伝馬町の仁兵衛長屋に住む
おしず:おつたの母
おうの:おつたと同じ長屋に住む女
唐物屋のご隠居
阿部正弘:老中首座
江藤内蔵助:阿部家家臣
料理屋もち月の板前
水野忠央:紀伊藩付家老で、紀伊新宮藩当主。お琴の方の兄
安吉:牛天神門前町の葉茶屋の手代
勘五郎:御大工若頭
伝兵衛:油屋・桝屋の主
宇平治:池ノ端の打物問屋・名越屋の主
おそで:宇平治の一人娘

物語●「はだか嫁」五代続く献残屋・仙石屋五代目のご新造おしのは、大奥女中の使用人が持ち込んだ桐箱から、将軍家慶の寵愛を一身に集める側室お琴の方様宛の奉書包を見つける…。

「じゃばら水」お琴の方の元から引き取ってきた秋田諸越(落雁の一種)を仙石屋で買った長屋住まいの女が、諸越を食べたすぐ後に母が死んだと、その翌朝に店に怒鳴り込んできた…。

「散り惑ひ」番頭の喜六は、老中首座・阿部正弘の屋敷から出された藍九谷の壺を景徳鎮と見誤り、八両のところ十五両で引き取ってしまった。喜六は、己の失態に深く傷つきやつれて、お暇を取ることを申し出るが…。

「鬼の間尺」丁稚の為吉が目の縁を赤く染めて二番蔵のほうから駆けてきた。手代の弥五松は小言を言ってしつけをしたというが、為吉の様子が気になったおしのは、蔵に呼び出して為吉の隠し事を聞き出した…。

「黒船」お琴の方は、家慶の十四男に数えられる若君長吉郎を春に亡くし、ペルリ率いる黒船が押し寄せた余韻が冷めぬうちに家慶が逝去し、家定が十三代将軍の座に就くにあたって、江戸城本丸の大奥から虎ノ御門の御用屋敷に居を移されていた。お悔やみをいうべく、おしのは久々にお琴の方の元を訪ねる…。

「おおなえ」おしのは、紀伊新宮藩主・水野忠央からのお琴の方への献上品である、硝子でできた鳥籠を引き取ることになった…。

目次■はだか嫁|じゃばら水|散り惑ひ|鬼の間尺|黒船|おおなえ|解説 島内景二

デザイン:南伸坊
解説・島内景二
時代:嘉永三年(1849)紫陽花の咲くころ。七年前が天保の改革で、国定忠治が磔になった年
場所:平河御門、江戸城大奥、九段坂、俎板橋、黐木坂、小伝馬町、日本橋本町、谷町、金鱗堂の真裏、虎ノ門御門外御用屋敷、雉子橋通り、大曲、三光稲荷の裏手、浄瑠璃坂、ほか
(文藝春秋・文春文庫・629円・2012/04/10第1刷・294P)
入手日:2012/06/26
読破日:2012/07/13

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