蝦夷地別件 上・中・下
(えぞちべっけん)
船戸与一
(ふなとよいち)
[蝦夷]
★★★★☆
♪船戸さんというと、冒険小説界の雄。ひところはかなり入れ込んで読んだ作家の一人だ。船戸さんが時代小説というと、意外な感がしないでもないが、テーマを聞いてニヤリとしてしまった。“権力に虐げられる先住民族の闘い”はまさしく作者が好んで選ぶ冒険小説の題材である。そんな訳か従来の冒険小説ファンにも、すんなり入り込める作品になっているて、日本冒険小説協会大賞を受賞している。
3週間以上かけて読了する。なんと、2800枚(原稿用紙の枚数をいわれてもピンとこないのだが、とにかく巨編である)の大長編で、東蝦夷、ロシア、松前、江戸とそれぞれの地を舞台に、未曾有のスケールで描いている。読書中、何度か「この作家はふだん何を食っているのだろうか」と思ったほど、バイタリティ溢れる作品だ。池波さんや藤沢さんの作品が和食とすると、血の滴るレアな肉料理にたとえられそうな感じだ。
◆主な登場人物
ステファン・マホウスキ;救国ポーランド貴族団の一員
ミハウ・クラコヴィッチ:同貴族団の指導者
サロモン・トレンヴィッキ:同貴族団の一員
ドーザク:オロッコ人の通訳
ナズナーツィン:ロシア正教分離派・鞭身派の祈祷師
ニコライ・イワノヴィッチ・チュコフスキー:ロシア皇帝特別官房秘密局六等官
洗元:本草学の心得がある臨済宗の僧
静澄:天台宗の僧
葛西政信:幕府御家人の息子
葛西政明:政信の兄
ゴスカルリ:政信と行動を共にするアイヌ
伝七:飛騨屋の厚岸支配人
勘平:飛騨屋の国後支配人
佐吉:旅籠「飛騨屋」の番頭
吉兵衛:飛騨屋の番人
新井田孫三郎:松前藩番頭
松前道広:松前藩主
松前監物:松前藩家老
松前平角:松前藩目付
氏家忠勝:松前藩沖の口奉行
勘右衛門:孫三郎の間諜
登勢:孫三郎の妻
ツキノエ:国後の脇長人
セツハヤフ:国後の長人、ツキノエの息子
ハルナフリ:セツハヤフの息子
オペルヨフ:ハルナフリの母
イコリカヤニ:セツハヤフの弟
マツケニ:ツキノエの妻
サンキチ:国後の惣長人
ホニシアイヌ:サンキチの息子
モシランケ:国後の長老
キララ:モシランケの孫娘
ハスマイラ:ゲンノカリの妻
ミントレ:高台の集落の長人
マメキリ:船着場の長人、サンキチの弟
イコトイ:厚岸の惣長人
オッケニ:イコトイの母、ツキノエの妹
ションコ:野付嶋の惣長人
ホロエメキ:忠類の長人
キニサップ:岩鼻の長人
マペルキリ:イコトイの子分のアイヌ
ドルコエ:国後に住むアイヌの通詞
アラキライ:択捉のアイヌ。ロシア語を解する
物語●フランス革命を目前に控えた頃、ロシアに服従させられていた、ポーランド人貴族のマホウスキが択捉島にやってきて、国後のアイヌの脇長人・ツキノエと会った…。
蝦夷地では、和人の横暴に対するアイヌの憤怒の炎が燃え上がろうとしていた。この地の直轄を狙う幕府と、権益を守ろうとする松前藩の争い。様々な思惑が渦巻き、蝦夷地最大の蜂起「国後・目梨の乱」へと発展していった…。
目次■登場人物一覧/関連地図/書簡・前段/波の譜/地の譜(以上上巻)|登場人物一覧/関連地図/火の譜/夜の譜(以上中巻)|登場人物一覧/関連地図/霧の譜/風の譜/書簡・後段/参考文献/解説 井家上隆幸