(しずかなき)
(ふじさわしゅうへい)
[武家]
★★★☆☆☆
♪藤沢さんの最晩年の三篇を収録した作品集。大き目の文字、薄手の本に、何ともいえない寂しさを感じ、喪ったものの大きさにあらためて気付く。
現在、通勤に片道40分強電車に揺られる生活を送っている。そのため、電車が主要な図書室代わりになっている。初めて、1日の通勤の行きと帰りで1冊の本を読んだ。123ページという薄手で文字も大きいこともあるから、あまりえばれないが…。
藤沢さんの最晩年の短編集ということで、暗いもの、重いものを予想していたが、端正な筆致の中に、そこはかとなく軽妙さもあって、読み味のいい作品集であった。
「岡安家の犬」ヒントとした本があるそうだが、何やら中国の話を日本に翻案した印象がある。赤犬が出てくるからだろうか。とはいえ、まぎれもなく海坂(うなさか)藩ものの一編である。「静かな木」長篇になってもおかしくないスケールのある話。『三屋清左衛門残日録』を彷彿させる。「偉丈夫」最後の最後で、海坂藩に支藩・海上(うなかみ)藩があったなんて教えられたら、いよいよ続編が読みたくなってしまうではないか。
物語●「岡安家の犬」岡安家の人々は、近習組につとめて百十石をいただく当主の甚之丞をはじめ、大の犬好きだった。屋敷にアカという名の赤犬を飼っていて、そのかわがりようは尋常ではなかった…。「静かな木」布施孫左衛門は五年前に隠居し、二年後に還暦を迎える。隠居する前は勘定方に勤めていたが、二十年ほど前の不祥事に巻き込まれて家禄を十石減らしたことを痛恨事として胸に残していた…。「偉丈夫」片桐権兵衛は六尺近い巨躯でいかつい容貌をして寡黙ながら、藩の右筆役を務めていた。その権兵衛がある大役をおおせつかった…。
目次■岡安家の犬|静かな木|偉丈夫|海坂藩の地図 立川談四楼