(しぐれみち)
(ふじさわしゅうへい)
[短編]
★★★☆☆
♪モノクロームのフィルムのように地味な作品集だが、密度は濃く、藤沢さんならではの職人芸が堪能できる。収録作品は大きく武家物と市井物に分けられるが、端正な筆致で、全体には暗めのトーンながらも、どこかに救いがある、そんな作品ばかり。
武家物:山桜の枝が縁で見合い話のあった男と出会う人妻の恋を描く「山桜」は、海坂藩(藤沢作品ではおなじみの)を、帰還したばかりの隠密が未だ帰還しない同僚の行方を追う「帰還せず」は海坂藩を思わせる架空の加治藩が舞台になっている。「飛べ、佐五郎」敵持ちの佐五郎は、小料理屋で働く女のヒモのような生活をしていた…。「滴る汗」城中へ品物を納める荒物屋の主人は、実は公儀の隠密だった…。
市井物:「盗み喰い」根付職人の政太は、病に蝕まれている同僚の看病を許婚に頼んだが…。「幼い声」櫛職人の新助は、幼なじみの女が男を刺して入牢したことを知る…。「夜の道」嫁入りを控えたおすぎの前に幼いころに生き別れた母と名乗る品の女が現れた…。「おばさん」まもなく四十に手が届く寡婦およねは、倒れている若い男を助けて家に連れて帰るが…。「亭主の仲間」日雇いで働く亭主が、商家の若旦那のような感じのいい若い男を仕事仲間だといって家に連れてきた…。「おさんが呼ぶ」紙問屋の下働きとして働くおさんは、度はずれた無口であった…。
物語●にがい思い出だった。若かったちはいえ、よくあんな残酷な仕打ちが出来たものだ。出入りする機屋の婿養子に望まれて、新右衛門は一度は断ったものの、身ごもっていたおひさを捨てた。あれから二十余年、彼女はいま、苦界に身を沈めているという……。表題作「時雨みち」をはじめ、「滴る汗」「幼い声」「亭主の仲間」等、人生のやるせなさ、男女の心の陰翳を、端正な文体で綴った時代小説集。