海鳴りやまず 八丈流人群像
(うみなりやまず・はちじょうるにんぐんぞう)
藤井素介
(ふじいもとすけ)
[市井]
★★★★☆
♪第四回時代小説大賞受賞作。ずっと気になっていた作品で、松井今朝子さんの時代小説大賞受賞を機会に読む。
流人の島、八丈島を題材に選んだことが成功の大きな要因だ。流人の島というと、『木枯し紋次郎』の最初のシーンが印象的なほかには、それほど描いている作品は多くない。
作者は、この八丈島で生活することになる流人たちの生い立ちや現在の生活ぶりを描くことで、理不尽な施政のあり方や人間の本質を興味深く描いている。ただ、それだけであれば、暗くなりがちなのだが、そこに流罪となった父の付き添いとして渡島した主人公斎藤守孝を配することにより、前向きさ、純粋さ、若さ、などの明るい部分を与え、バランスを見事にとっている。一種のビルドゥングスロマンとしての爽やかさがある。
文化四年の永代橋落下の責任により流罪となった町役やエトロフ航路を開いた近藤重蔵の息子富蔵など、その時代を感じさせる流人も登場して興味深い。
物語●江戸時代、八丈島は配流の島だった。延べ1800人を超す流人の中には理不尽な施政の犠牲者も多い。主人公、守孝は、普請金負担にあてる金を捻出するため、陰富興行に加担し流罪となった小普請組支配の父、斎藤金一郎に付き添って、八丈島に生きることになった若者である。閉塞された島で展開する愛憎の日々の中で、守孝は、青春を迎える…。
目次■第一章 文政四年(西暦一八二一年) 登竜峠・蝮・手拭い・竹槍・その顔南に/第二章 文政七年(西暦一八二四年) 雛形・受難・雪達磨・発心/第三章 文政十一年(西暦一八二八年) 櫟の実・折れた鋏・祝言/第四章 天保十二年(西暦一八四一年) 一字一石・去る者 残る者/参考文献/あとがき/解説 縄田一男/八丈島関係地図 磐広人