白木屋犯科帳
(しろきやはんかちょう)
藤井博吉
(ふじいひろきち)
[ピカレスク]
★★★☆
♪恥ずかしいことだが、時代小説大賞を獲った藤井素介さんの作品と勘違いして購入した。
ジャンルとしては、池波さんの「梅安」シリーズが含まれる「必殺もの」、「仕掛もの」というところになるだろうか。ドラマとしては、面白いし、殺されるにはそれなりの訳があるのだが、やっぱり人が殺されていくというのは何とも…。
主人公・吉兵衛の異能ぶりが面白い。「かつて江戸中から足におぼえの飛脚、駕籠舁きがあつまって、早駆けの競走が催されたことがあった。それに参加した吉兵衛が余裕の一着をとって息ひとつ乱さなかった」というエピソードをもち、「逃げ水の吉兵衛」と渾名されている。また、五間(約9メートル)もの距離を一気に跳ぶことができるという。さしずめ江戸のカール・ルイスといったところ。
連作の中で、いつも仕事の指令を伝えるのが、白木屋江戸店支配役竹田次郎右衛門で、その仕事をサポートするのが深川網打場の小料理屋〔桔梗〕の女将おりょうと鉄砲洲稲荷の蒲焼の店〔笠屋〕の主・諫早の禅定、という一連のパターンができている。
白木屋vs.越後屋の経済戦を描く「符丁」がもっと書き込まれていればさらに面白くなるのだが…。
物語●日本橋檜物町の長屋の家守・吉兵衛の裏の顔は、江戸屈指の呉服商・白木屋の邪魔者たちを次々と消していく行く“陰の吟味役”である…。
「餘寒の闇」白木屋が米の不正取り引きをネタに旗本の次男坊に強請られる…。「日暮れ河岸」吉兵衛は白木屋に三十五年前に同期で入った旧友に人殺しを頼まれる…。「符丁」吉兵衛は白木屋出入りの紺掻き職人に、ライバル・越後屋の情報を仕入れるように依頼するが…。「水神の森」白木屋が伊達藩に用立てるはずだった二千両が何者かに盗まれた…。「橋場」白木屋が屋敷を貸している御庭番川村家に醜聞が…。
目次■餘寒の闇/日暮れ河岸/符丁/水神の森/橋場