鬼平殺し 御膳役一条惣太郎探索控
(おにへいごろし・ごぜんやくいちじょうそうたろうたんさくひかえ)
えとう乱星
(えとうらんせい)
[捕物]
★★★★☆
♪「鬼平」こと長谷川平蔵が殺されたというショッキングな設定の時代小説。しかも書き手がえとうさんということで、どんな風に料理するのか気になるところ。
伝奇小説で活躍するえとうさんの初の捕物小説。あとがきで書かれているように、伝奇小説はできるだけ大きく拡散していく物語であるのに対して、捕物小説は論理の組み立てで収束していく逆のスタイルである。いきなり、「鬼平」を殺すという発端からどのように結末に向かって話を進めていくのか興味深かった。
新ヒーローの惣太こと、禁裏御膳役宗家・一条惣太郎を中心に据えつつ、「鬼平」の世界の住人っぽい、元・火盗改め同心松村忠三(TVでオリジナルキャストとして、沼田爆さんの扮する“猫どの”こと村松忠之進を連想させる)を脇に据える構成で、鬼平のファンの方も楽しめる物語。また、鬼平のライバル松平佐金吾が登場するのもうれしい。
主人公の一条惣太郎が禁裏御膳役宗家で流れ板ということもあり、料理のシーンが多く出てきて、そこで作られる料理がどれもおいしそうで、読んでいておなかがすいてきて困った。ともかく、シリーズ化の予感があり、次なる活躍も期待できそうで楽しみ。
物語●「鬼平」こと長谷川平蔵は長く火盗改めの長官職に就いていたが、寛政七年に入って病を患い、十分に役目を果たせずに苦しんでいた。釣りを好む平蔵は、病を押して大川に出かけた。その翌日、永代橋にほど近い佐賀町の大川縁に、一体の亡骸が捨てられた。それを発見した火盗改めの同心はすぐにその遺体を役宅へと運び、爪が食い込んで血が滴るほど拳を握りしめて涙を流した。その亡骸こそ、火付盗賊改方長官・長谷川平蔵の変わり果てた姿だった。
元火盗改め同心の松村忠三は、料理好きが高じて、仙台堀沿いの冬木町で、料理屋<ね子>を開いた。構えは小ぶりであるが、平蔵の支援もあって、食通に評判の店となった。その<ね子>に、二十代半ばの流れ板の惣太が雇ってほしいとやってきた。惣太の腕に惚れ込んだ忠三は、住み込みで明日から板場を手伝うように命じた…。
目次■序章 長官/第一章 流れ板/第二章 夜鷹殺し/第三章 若衆飼い/第四章 徳なし徳助/第五章 もう一人の長官/第六章 深川十五番組/第七章 閻魔裁き/あとがき