ほうけ奉行 若宮隼人殺生方控
(ほうけぶぎょう・わかみやはやとせっしょうがたひかえ)
えとう乱星
(えとうらんせい)
[伝奇]
★★★★☆☆
♪『かぶき奉行』に続くえとう乱星さんの「殺生方控」シリーズ第2弾。時代は五代将軍綱吉の生類憐れみの令のころ。
えとう乱星さんの『ほうけ奉行―若宮隼人殺生方控』を読了。10年近く文庫化を待ち続けた甲斐があった、第1作の『かぶき奉行―織部多聞殺生方控』に匹敵する傑作伝奇小説だ。
徳川五代将軍綱吉の生類憐みの令の時代を舞台にし、本来は狩猟全般を取り仕切る役目の殺生方が、犬など生き物を殺生した者の取り締まり役へと変節を余儀なくされた。心ある殺生方は、金品をせびって罪を見逃すか、惚(ほう)けるしかない。主人公若宮隼人の上役で殺生奉行の筒井親兵衛のほうけぶりが見事で、作品に奥行きを与えている。
前作『かぶき奉行―織部多聞殺生方控』からおよそ三十年が経過した設定で、主人公などが主要な登場人物が入れ替わる中で、前作の主人公織部多聞と光圀が引き続き登場するのが、前作からのファンにはたまらないところ。綱吉も前作でチラッと姿を見せている。また、無外流の流祖辻月丹が重要な役割で登場し、剣客商売ファンにはうれしいところ。
物語●若宮隼人は、亡き父の役職だった殺生方与力に任ぜられて心躍らせていた。上役となる殺生奉行・筒井親兵衛に挨拶するために、元お狩場に足を踏み入れようとしていた。綱吉が五代将軍になって以来、鷹狩りは中止され、綱吉の、生き物の命を大切に思う心は強く、二年前に鷹部屋・鷹匠は廃止され、飼われていた鷹はすべて伊豆の新島に送り放しになった。将軍の狩りの一切を取り仕切る役目の殺生方も、本来ならお役御免になるところ。斬り捨て御免の殺生勝手という殺生方の特権が、生類憐れみの令を守らずに、禁を犯した者を処罰する際には都合がいいとして、そのまま残されたのだった…。
目次■華胥の国/虎が雨/狼子野心/破鏡の嘆/寒鴉/天元の一石/吾唯足知