冬の火花 上田秋成とその妻
(ふゆのひばな・うえだあきなりとそのつま)
童門冬二
(どうもんふゆじ)
[人物]
★★★☆☆
♪童門冬二さんというと『小説上杉鷹山』をはじめ、評伝というよりは、有名人の人間ドラマを描くイメージが強い。TV『知ってるつもり!?』的な感動があるのだが、この作品は何とも不思議なテイストの時代小説になっている。
主人公の上田秋成は、江戸期を代表する怪奇幻想小説『雨月物語』の作者である。1月に新国立劇場で、『新・雨月物語』(こちらの原作は川口松太郎)が上演されるということで、興味を持って読み進めた。
家庭内別居を試みる妻や、出生や不自由な指のことで生涯悩み、屈折した心情をもつ秋成など、意外な素顔が浮き彫りになっていく。
物語●上田秋成とその妻たまは、南禅寺山内の常林庵の裏手に一間しかない庵に移った。庵の前には、東山で湧いた水が小さな川となって流れていた。新居に移ったたまは、部屋の整理に取りかかった。夫の書物を積み上げて塀をつくり、夫の居間と、自分の居間の仕切った…。
目次■ハサミのない蟹/妻の号は瑚れん(王へんに連の字)/本を積んで住み分け/京の奇人たち/異心同体/花の名はなぜ月見草なのか/古事記伝兵衛/畸人伝に入れてもらえない/夫の底には直き心から/実父は生田伝八郎/心の別居三十四年/作家は無産の罪人だ/業がやらせる嫌がらせ/死病にかかっていた妻の悲願/文芸東漸/妻は執拗に秘密に迫る/上田秋成の秘密/真実は嘘と事実の間にある|童門冬二著作リスト