俥宿
(くるまやど)
出久根達郎
(でくねたつろう)
[明治]
★★★★
♪飛脚屋を舞台にした『おんな飛脚人』が面白かった出久根さん。今回は、人を運ぶ、明治の東京の俥屋を舞台にした人情ミステリー。
病気の父親を抱えて、女車夫となったばかりの夢尾の周囲で異様な事件が頻発した。乗客が隠し持っていた石で車夫を襲う。憲法発布に賑わう明治の東京を舞台にした、人情味あふれるミステリー。ほのぼのとした中に、おかしみのある作品。人力車をはじめ、憲法発布、鹿鳴館、鉄道…、明治を感じさせる事物が続々と登場して、興味深く読むことができた。
ヒロインの夢尾が、『おんな飛脚人』のまどかにつながる、おくてでまっすぐな若い女性として描かれていて好感がもてる。キャラクターの配置もよく似ていて、ファンにはうれしいところ。
あとがき2編で綴られている、人力車に関するトリビアも秀逸。もう少し明治という時代に浸っていたくなった。
物語●車夫(挽子)になったばかりの夢尾は、俥宿(人力車屋)「相川」の内儀・せつに頼まれて、出所してくる長男の鎌三郎を出迎えに市谷の監獄にやってきた。鎌三郎は、車夫たちの地位の向上のための社会運動に関わって、巡査を殴ったり侮辱して、入獄していたが、憲法発布の大赦で六年ぶりに出獄することになっていた。鎌三郎の顔を知らない夢尾は、せつから役者のようにいい男で、雪駄の鼻緒に、黄色い布を巻いてあるという目印を聞いていたが…。
目次■万歳/雛の前日/トロロ飯/いやがらせ/名刺/凶変/土蔵/不動/軍人/写真/女装/号外/西郷星/人力車時代――あとがきにかえて/歴史上の人力車――文庫版あとがき