(あんせいたいへん)
(でくねたつろう)
[災害]
おすすめ度:★★★★☆☆
♪安政二年十月二日に江戸を襲った大地震に翻弄される人々を描く連作短編集。中一弥さんの挿絵が江戸気分を盛り上げてくれる。
「赤鯰」
長屋で読み書き師匠を始めたばかりの菊太郎のもとに、男の子を連れた娘がやってきて入門したいという。男の子は喜一という名で、一匹の赤鯰を小さなたらいに入れて持ってきた…。
「銀百足」
火事で勤め先を失い生活に困窮した大八は、家に大量発生した百足を菜種油に漬け込んで、打ち身切り傷に効く薬として売り始めた…。
「東湖」
前水戸藩主・徳川斉昭の補佐役の藤田東湖は、大酒のみで素面のときも酒毒による幻覚に襲われていた。その酒は、近所の古本売買所の御縁堂治助のところで求めていた…。
「円空」
「いちぜん長屋」に住む炭売りの泰助は、今戸の湯屋から仏像の燃えカスのような炭を手に入れたことから事件に巻き込まれた…。
「おみや」
井戸掘りの男が夜鷹の女に恋をした…。
「子宝」
子宝を授かる湯として有名な伊豆の右奈温泉に、信之助とお梶がやってきた。そこの湯殿で、五十半ばの夫婦と十二、三歳の娘の三人連れと出会った…。
「玉手箱」
十八歳の千太郎は、たった三カ月の間に二度も火災に遭った。勤めていた干瓢問屋では伯父夫婦を失い、次に世話になった鼻緒屋から身ひとつで逃げた。そして、素麺干麺問屋で小僧となるが、三つ目の災害、大地震に遭う。千太郎は、地震の後の火事で避難中に、同い年ぐらいの美しい娘に出会う。そして、娘から「四日後に、吾妻橋のたもとに来て下さいませんか」と言われて、小さな風呂敷包みを預かった……。
大災害を描いているので、ちょっと哀しい物語や悲劇性のある話が多い。そんな中で、最後に収録された「玉手箱」はファンタスティックな作品で、読了後の余韻が快い。
目次■赤鯰|銀百足|東湖|円空|おみや|子宝|玉手箱|鯰絵――あとがきにかえて|解説 山本博文