伽羅千尋 南町同心早瀬惣十郎捕物控
(きゃらちひろ・みなみまちどうしんはやせそうじゅうろうとりものひかえ)
千野隆司
(ちのたかし)
[捕物]
★★★★☆
♪前作『夕暮れの女』がサスペンスフルで面白かったので、第2弾の今回も期待大。
千野さんの作品の場合、いつも「地味ながら」と前置きをつけて評価するが、今回も派手さはないが、良い仕事をしている。捕物小説という形をとりながら、市井に生きる男と女の愛と憎しみをしっかりと描いている。
前作ではたそがれ時の不確かな視覚や記憶が事件のカギを握っていたが、今回は嗅覚が事件の行方を左右している。「伽羅千尋」という香(こう)が現場に残された唯一の手掛かり、そこから丹念な探索で真犯人を追い詰めていくところがスリリングだ。
サイドストーリーとして、祝言をあげてから九年が経過し、次第に溝ができてしまった妻を気にしながら、事件に取り組む惣十郎の姿に共感を覚える。前作からの二人の関係に新たな展開が見られ、次回作が今から楽しみだ。
物語●閑静な町並みの、とある隠居所で紙問屋「美濃屋」の主人富右衛門が全裸死体で発見された。報せを聞いて現場にやってきた南町奉行所定町廻り同心の早瀬惣十郎は、首の後ろに匕首が刺さったままの遺骸を見た。現場には少し甘いような上品なにおいがしていた。そしてそれが「伽羅千尋」という高価な香だということを突き止めるが…。
目次■前章 残り香/第一章 薬種屋/第二章 意気地なし/第三章 姉と弟/第四章 新たな男/第五章 香の果て