浜町河岸夕暮れ
(はまちょうがしゆうぐれ)
千野隆司
(ちのたかし)
[捕物]
★★★☆☆☆
♪この本は、タイトルで損をしている。安直なようだが、「捕物」って言葉を題名に入れたら絶対もっと読まれるはずなのに。と、思っていたら、単行本刊行時には、『浜町河岸夕暮れ―市蔵、情けの手織り帖』という題名だった。
収録作「夜の道行」で、第12回「小説推理」新人賞受賞。
連作形式で、雰囲気的には藤沢周平さんの捕物帳に似ていて、ちょっと切ない作品だ。
本書の主人公市蔵は、木更津の漁師の息子で、今は日本橋界隈を縄張りに岡っ引きとして活躍していた。女房のお秀に小料理屋「きさらづ」を任せて、一人娘のおゆきはもうすぐ嫁にいくところ。女好きで酒好きだが、骨惜しみしない直次を手先に使っている。
捕物を縦糸に、市蔵の家族との交流を横糸に話は綴られていく。
物語●「夜の道行」薬研堀で呉服屋の通いの女中の絞殺体があがった…。「浜町河岸夕暮れ」独り者の大工が長屋で切腹していた…。「風のゆくえ」大きな商いを控えた材木屋の女房の前に七年ぶりに恨みを抱いた弟が帰ってきた…。「闇の向こう」老舗の履物屋の跡取り息子が雪の日にかどわかされた…。「春霖に消えた影」地廻りの子分をしていた十六、七の男が、裏通りで刺殺された…。
目次■夜の道行/浜町河岸夕暮れ/風のゆくえ/闇の向こう/春霖に消えた影/解説 長谷部史親