(やりつそざい じょう・そうげんのゆめ げ・むげんのきょく)
(ちんしゅんしん)
[中国]
★★★★☆
♪短絡的なのだが、夏といえば北の草原=モンゴルというわけで、チンギス・ハン時代をテーマにした、陳舜臣さんの本書を読んでみようと思った。というのは、口実で実はヒロスエ(広末涼子さん)の「ナツイチ」バッジが欲しかったから。夏休み目前というせいか各出版社で名作フェアを展開しているが、今回は集英社文庫のキャンペーンと新潮文庫の「Yonda」キーホルダーが良かった。ただ気になるのは、各社の対象文庫に時代・歴史小説が少ない点だ。まぁ、もともとティーン向けに始めたものだからしょうがないか。
今でこそ、宮城谷昌光さんをはじめ、藤水名子さん、狩野あざみさん、井上祐美子さん、田中芳樹さん、酒見賢一さんら中国ものを書かれる作家が増えたが、以前は陳さんのほかには伴野朗さんぐらいが活躍されていた。そんなわけで、時おり中国ものが読みたくなると、陳さんの作品のお世話になっていた。
久々の中国もの、しかも金やモンゴルが舞台ということで、地名や人物に慣れるのにちょっと苦労した。征服王朝のせいか、世界史でもサラッとしか習わなかった気がする。本作の主人公・耶律素材についても、中国史上でも重要なパーソンなのだが、初めて知った。ポジション的には諸葛孔明と並び称される人物だが、その半生は感動的であり、新鮮だった。夏にふさわしい清涼感あふれる一冊(上下巻だから二冊というべきか)だ。
◆主な登場人物
耶律楚材:モンゴルの宰相
耶律履:金の宰相、楚材の父
楊氏:楚材の母
耶律弁才:楚材の異母長兄
耶律善才:楚材の異母次兄
チンギス・ハン:モンゴルの大首長
鉄壁:本名・程啓堅。報国寺の雑用を行う少年
長春真人:全真教の教主
法仁:報国寺の名僧
梁氏:楚材の妻
貞婉:蘇東坡四世の孫
耶律塔列:西遼の亡命貴族
耶律阿海:モンゴルの幹部
万松老師:楚材の師である禅師
アリ:ホラズムの商人
元好問:楚材と同年の詩人
ジュチ:チンギス・ハンの長男
チャガタイ:チンギス・ハンの次男
オゴディ:チンギス・ハンの三男
トゥルイ:チンギス・ハンの四男
物語●「外国で用いられる人材」という意味を込めて名付けられた楚材。長じて儒学と仏教の教えと、詩、天文を修めて、北の草原から押し寄せる圧倒的な力から人命と文明を守る志を得る。28歳のときに、チンギス・ハンより召され、遥かサマルカンドへいたる征西に従うことになる…。
目次■楚材誕生/蹄の音/究薬堂の客/胡沙虎の乱/同楽園漁藻池/南遷前夜/絶粒六十日/覇者西遷/落日飛鴻/ウルツサハリ/征途遥かなり/滄海横流/ホラズム蹂躪/断蓬/仇敵として別れる(以上上巻)|チンギス・ハンの死/燕京蘇生/クリルタイ開かる/鳳翔にて/鮮血湯/カラコルム往還/あとにつづく者/オルホン河のほとり/勝利の宴/大ハンの死/吾山に帰らん/追記/あとがき/解説 稲畑耕一郎(以上下巻)