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遊部 上・下

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遊部 上
遊部 上・下
(あそべ・じょうげ)
梓澤要
(あずさわかなめ)
[伝奇]
★★★★☆☆

大仏炎上、本能寺の変、正倉院の呪術集団との戦い…。『百枚の定家』の著者の伝奇長篇。あとがきによると、作者が十年前に編集者から聞いた京都の漆器屋さんの老店主の名字「遊部さん」の話がきっかけになったという。「うちの祖先はむかし、奈良の東大寺で正倉院の警護をつかさどる一族だった。そのかたわら諸国を遊行し、正倉院を冒すと仏罰がくだると吹聴して歩いては、民衆の心に畏怖の念を植えつけた。あいつぐ戦乱で人心が荒廃していた時代、そうやって正倉院を略奪や盗難から護った」という話だ。今まで、日本ではなぜ盗掘がそれほど頻繁になかったのか、不思議だったが、少し納得できた。

正倉院の宝物を護る、遊部一族の存在が、ユニークで圧倒的な面白さを生み出している。織田信長、堺の豪商で信長のお茶頭(さどう)・津田宗及(つだそうぎゅう)、京都所司代村井長門守貞勝、稀代の奇人・行空(元の関白九条稙通)、秀吉らが物語に絡む。

遊部のプロパガンダ活動に、出雲の阿国や、『真田太平記』でおなじみの小野のお通を思わせる女性が登場するのも面白い。伝奇小説の魅力が堪能できる作品である。

物語●永禄十年、松永弾正久秀は、南都の聖地・東大寺を挟んで三好勢と戦った。戦闘は何回か繰り返された。突如大仏殿からすさまじい火焔が噴きあがり、火炎の坩堝の中で、大仏は焼け爛れ、溶け崩れた。東大寺の宝蔵の正倉院を管理している院主の実祐(じつゆう)は暗澹と見つめた。
そして天正二年、東大寺の実祐は、二度目の災厄に見舞われた。尾張の織田信長の使者が「蘭奢待を拝見したい」と申し入れてきたのだ…。

目次■序章 大仏炎上/第一章 蘭奢待/第二章 天王寺屋宗及/第三章 闇の狭間/第四章 恋/第五章 松籟(以上上巻)|第六章 春日野/第七章 本能寺/第八章 遊行/第九章 鎮魂/第十章 破邪王/第十一章 強奪/第十二章 北野決戦/あとがき(以上下巻)

装画:斎藤隆
装幀:菊地信義
時代:永禄十年。
場所:奈良・東大寺、寺ケ谷、堺・南大小路町、櫛屋町、京・東宮御所、ほか。
(講談社・各1,900円・各00/02/21第1刷・上354P、下385P)
入手日:00/02/25
読破日:00/04/16

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