山峡の城 無茶の勘兵衛日月録
(さんきょうのしろ・むちゃのかんべえじつげつろく)
浅黄斑
(あさぎまだら)
[武家]
★★★★☆
♪ミステリー畑で活躍する浅黄さんの時代小説。『芭蕉隠密伝 執心浅からず』が面白かったので、今回も期待して読み始める。主人公の勘兵衛は、七十石で郡方勘定役小頭を務める落合孫兵衛の長男で、このとき十一歳だったが、「無茶の勘兵衛」と周囲から呼ばれていた。
そのあだ名の由来はこうだ。三歳のときに雪に埋もれて死にかけたことがあり、五歳のときには湧水池で溺れかけたことがあり、七歳のときには三丈(約9m)の楠に登って樹上で立ち往生して大騒ぎになり、九歳のときには梅雨で水かさを増した川に飛び込んで半里(2キロ)も流され、一年おきに無茶をしでかす童だとの評判が立ち、ついには「無茶の勘兵衛」と呼ばれ、城下で有名人になってしまったのだ。
物語は、「坊ちゃん」を連想させるような無鉄砲な勘兵衛少年の成長とあわせるように、藩内の不吉な影が大きくなり、抗争劇が激化していく。そしてついには、一人の藩士の斬殺体が発見される……。
藩内の抗争を背景に少年の成長を描く作品としては、藤沢周平さんの『蝉しぐれ』や宮本昌孝さんの『藩校早春賦』、羽太雄平さんの『峠越え』などの傑作がある。青春時代の友情や初恋、純情などが、どす黒い大人の争いと対比して描かれることで、清冽さがいっそう際立ち、読み味がよくなっている。
ブログ◆
2006-05-14 越前大野が魅力的に描かれた作品
2006-05-13 越前大野藩を舞台にした青春時代小説
物語●十一歳の落合勘兵衛は、二つ年上の親友伊波利三から、藩主の若君、左門が勘兵衛に会ってみたいという話を聞いて素っ頓狂な声を上げた。利三は左門の児小姓を勤めていたが、若君に城下の様子などを面白おかしく話して聞かせる中で、「無茶の勘兵衛」のことを話した結果、若君が勘兵衛に興味を覚えたらしい。若君への御目見得をすることになった七十石の落合家は大騒ぎに……。
目次■無茶の勘兵衛/松田拝領屋敷/清滝社/惜別の竹とんぼ/組屋敷の泥棒/不倫の余波/淀の小車/父の異変/凶事/勘兵衛と父/讒訴/酔芙蓉/転回/峠の刺客/有為転変
カバーイラスト:渡辺文也
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
時代:寛文七年
場所:越前大野ほか
(二見時代小説文庫・648円・2006/05/25第1刷・348P)
購入日:2006/05/08
読破日:2006/05/13
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『山峡の城 無茶の勘兵衛日月録』(浅黄斑・二見時代小説文庫)