芭蕉隠密伝 執心浅からず
(ばしょうおんみつでん・しゅうしんあさからず)
浅黄斑
(あさぎまだら)
[芸道]
★★★★☆☆
♪ミステリー作家として活躍中の浅黄さんの時代小説。たびたび取り上げられることが多い芭蕉の隠密説を扱っているので興味深い。
俳聖・松尾芭蕉が江戸に出るまでを描く、とにかく面白い青春小説。昨秋深川・万年橋の芭蕉記念館を訪れたことを思い出した。その当時は、試験に出てくるような偉い人で近寄りがたいイメージがあったが、この本を読んでから一気に親近感が持てた。そのせいか作中で紹介される芭蕉の初期の句もすんなりと頭に入ってきた。
芭蕉の隠密説の信憑性がどうなのかはわからないが、芭蕉の青春時代の足跡を追うことで、その可能性にチャレンジしている。恋に悩んだり、出世への野心を抱いたり、挫折して無頼に生きたり、等身大の若者としての芭蕉が描かれていて共感が持てた。また、知らず知らずのうちに政争に巻き込まれたり、若者ならでは冒険もありで、楽しい一編。次回作も期待できそう。
物語●芭蕉は、寛永二十一年(1644)、松尾与左衛門のことして、伊賀忍者の里、伊賀上野に生まれた。その松尾家も母方の百地家も俗説によれば忍者の家系といわれる。物語は、芭蕉(幼名・金作→半七→藤七→宗房)、十二歳のときから始まる。金作はまさに神童で十歳の頃には、田畑の小作のかたわら寺子屋を開く与左衛門が教えるものがない状態で、伊賀上野で造り酒屋を営む大和屋窪田彦左衛門のもとで、連歌と伊勢帳合(商家の帳面付けの方法)をマスターしていた。その金作に、藩主の一族の藤堂新七郎家の嫡子良忠の近習として仕えてはどうかという話があった…。
目次■序にかえて/春や来し年や行きけん小晦日/うかれける人や初瀬の山桜/荻の声こや秋風の口うつし/桂男すまずなりけり雨の月/結びにかえて