柳生薔薇剣
(やぎゅうそうびけん)
荒山徹
(あらやまとおる)
[伝奇]
★★★★☆
♪
読みはじめてすぐに僕は、新しい金の鉱脈を探り当てたような歓喜に包まれた。『柳生薔薇剣』のあまりの面白さに舌舐りする思いで宙に向かってヤッホーと叫んだほどだ。これぞ僕が待ち望んでいた面白時代小説の一冊だと心の中で大きく合点したからだ。」
(『柳生薔薇剣』P.303 解説より)
今年5月に亡くなられた児玉清さんの解説が読みたくて、『柳生薔薇剣』を読んだ。児玉さんの解説は本への尽きない愛にあふれていて、読んでいて気持ちがいい。とくに読み終えた直後の余韻に浸っているときに読むと、「面白かったなあ」という印象が彼の言葉で具体的なものとして追認され、増幅されて、心地よい気分が長続きする。
さて、物語は、鎌倉の「縁切り寺」「駆け込み寺」として知られる東慶寺が舞台。東慶寺というと、隆慶一郎さんの『駆込寺蔭始末』や宮本昌孝さんの『影十手活殺帖』でもおなじみの場所。荒山さんは、夫ではなく、故国と縁を切るための寺として使う。
時代は三代将軍家光のころ。在日の朝鮮人を強制帰国させるための朝鮮からの外交使節団に過剰反応を示すのが、肥後隈本藩の加藤忠広というのがうまい設定。朝鮮生まれの一人の女性、貴月うねの身柄をめぐって、日本と朝鮮間での暗闘に、土井利勝や、家光の弟・忠長が加わり、スケールアップしていく。
この暗闘に、忍びや朝鮮妖術師、名だたる剣豪が加わり、「うね争奪戦」が展開されていくのがバツグンに面白い。そして、その中心にいるのが、将軍家兵法指南役柳生宗矩の長女で、一歳のときから祖父石舟斎の薫陶を一身に受けた柳生矩香(やぎゅうのりか)。凛として颯爽と登場し、獅子奮迅の活躍をするヒロインの存在が東慶寺という男子禁制の場所に絶妙にマッチしている。
物語●肥後隈本より、故国・朝鮮との縁を切るために、貴月うねは鎌倉東慶寺に駆け込んだ。故郷で虐げられ日本に永住を決意した朝鮮人を、強制帰国させるために朝鮮の外交使節団(刷還使)が来日したのだ。
将軍家兵法指南役柳生宗矩の長女・矩香は、東慶寺の門前で、隈本藩からの追っ手に駆け込みを阻まれているうねを助けた…。
目次■なし