(まがんでんせつ)
(あらやまとおる)
[伝奇]
★★★★☆
♪『高麗秘帖』『魔風海峡』に続く、朝鮮半島と日本のかかわりを描く伝奇三部作の完結篇。前作『魔風海峡』から時代が二百年下った文化八年(1811)に舞台を移し、泰平の時代をどう描くか興味深かったが、荒山さんはとんでもない物語を作り上げていた。謎の少女金春香が仄めかす徳川幕府二百年の泰平を震撼させる、李氏朝鮮と家康の密約とは? 国禁を犯し、朝鮮に渡る景元と追う柳生卍兵衛と、林大学頭の四男で若き日の耀蔵(後の鳥居甲斐守忠耀)。卓抜なる奇想で波瀾万丈の物語が紡ぎだされていく。ネタばれになるので、あまり書けないが、今回も山田風太郎さんと隆慶一郎さんの作品に匹敵する伝奇時代小説の傑作に仕上がっている。
朝鮮の歴史の勉強にもなるので、描かれている時代は少し後になるが、「宮廷女官 チャングムの誓い」で李氏朝鮮時代のことに興味をもった人にもおすすめ。また、朝鮮への玄関口として対馬が出てくる。対馬藩の剣術は東軍流だが、藩内に密かに流布しているという、山崎常左衛門という謎の刀術士が編み出した一睡流(いっすいりゅう)の黄梁剣(こうりょうけん)という秘剣が登場し、興味深い。
ブログ◆
2006-05-24 知恵伊豆vs.水戸光圀の対決が見どころ
2006-05-17 日本と朝鮮をめぐる伝奇時代小説
物語●五十年ぶりに朝鮮通信使が来日する直前、その窓口となる対馬藩の江戸屋敷に、「鈴木伝蔵」と名乗る曲者が侵入した。曲者は、「ハクセキトウの方々はおられぬか」と謎の言葉を残して去っていく。しかし、その人物は五十年前に死んでいた。事件の後、勘定奉行柳生主膳正久通の屋敷に、幕府の官学朱子学を司る林家の八代目当主林大学頭衡が訪れて密談を交わした。その後、主膳正は、庶子の柳生卍兵衛(ばんべえ)に、鈴木伝蔵と名乗る曲者を捕らえるように命じる。卍兵衛の魔手から曲者、実は美貌の少女金春香を救ったのは、家出中の若き遠山景元(遠山の金さん)だった……。
目次■序章 徘徊する亡霊/第一章 剣客・柳生卍兵衛/第二章 朝鮮通信使を廃絶せよ/第三章 対馬脱出/第四章 追撃と迎撃の宴/第五章 耽羅忍法フェオリバーラム/第六章 真説・春香伝(チュニャンジョン)/第七章 虎口からの脱出/第八章 湖底の魔岩/第九章 孤城、雪原に陥つ/第十章 日光東照宮の血戦/終章 はるかなる雲に帰る/解説・北上次郎