榎本武揚 改版
(えのもとたけあき・かいはん)
安部公房
(あべこうぼう)
[明治]
★★★☆☆☆
♪入手困難と思われた、安部公房さんの『榎本武揚』が新本で手に入った。章の扉にアイコンが付いていたり、イラスト地図が入っていたりで、今から25年くらい前に刊行された本としては、おしゃれだ。
『砂の女』などに代表される不条理でむずかしいというイメージがあった。今回は、時代小説ということでずいぶんとわかりやすくはなっているが、一筋縄ではいかない不思議さをやはり持っていた。時代の異なる、大東亜戦争時に憲兵を務めた男や、作者らしい語り手、元新選組の浅井十三郎など、いろいろな人の眼を通して、描かれる榎本像。榎本と対比させるために登場する土方歳三など、ユニークな手法をとっている。
榎本武揚という、幕末維新でもっともわかりにくい人物をうまく扱っているが、こういう描き方も正解かもしれない。
物語●伝説によれば、船で護送中の三百人の囚人たちが、途中で反乱を起こして、厚岸の港に上陸し、果てしない原野を越えて阿寒の山のふもとに彼らだけの共和国をつくりあげたという。しかし、その後の消息は不明…。この伝説に榎本武揚が関わっていたという。
目次■第一章/第二章/第三章/解説 ドナルド・キーン