白石一郎さんの『東海道をゆく』は、福岡藩の名物老人十時半睡とともに江戸時代の東海道を旅できて楽しかった。
とはいえ、読み進めて紙数が少なくなるにつれて、淋しく何とも言えない喪失感にとらわれた。そして、十時半睡の東海道の旅は、ほぼ中間の新居の関で終わった。作者が死の床で書かれたと思うと、よくぞここまでわれわれを連れてきてくれたと感謝の気持ちもいっぱいだ。
思い返すと、今から十数年前、池波正太郎さんによって時代小説の洗礼を受け、藤沢周平さんの作品にハマった後、次に読むべき作家が見つからず物足りない日々を送っていたときに、出会ったのが白石さんの作品である。
幕末に鯨捕りを目指す若者を描いた『サムライの海』で海洋時代小説の面白さに目覚め、長崎や福岡、豊後、島原、対馬など西国を舞台にした物語の数々で、江戸以外の場所からの視点で描かれた時代小説に魅力を覚え、そのロマンあふれる物語性に胸を熱くした。時代小説のもつ懐の深さを教えてくれた作家でもある。
2004年9月の死から、1年半がたった今、あらためて偉大な時代小説作家を失ったことに思いがいたった。もう、新作は読めないが、そろそろ、白石さんの名作を読み返してみてもいいころかもしれない。
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