白石一郎さんの『東海道をゆく』を読んでいる。「十時半睡事件帖(とときはんすいじけんちょう)」シリーズの第7作目で、著者の死去により未完に終わっている。このシリーズは、1994年秋に島田正吾さん主演でNHKテレビ金曜時代劇として放映されている。
十時半睡は福岡藩江戸藩邸の風俗の退廃のため老臣たちが江戸の目付制度の改革を思い立ち、改革の担当者として江戸藩邸への出仕を命じられて、三年前の秋より江戸屋敷総目付を務めている。国許で御蔵奉行を務める息子弥七郎が重病という知らせを受けて、見舞うため国許への旅に出る……。
「生きる者は生き、死ぬ者は死ぬ」という死生観から、藩船の船出を私用で早めて海路で急ぐより、悠々と旅路を楽しんで帰国するほうが自然でよいと、あえて日数のかかる東海道五十三次を選ぶ半睡。
海洋時代小説の第一人者である白石さんとしては、異色ともいうべき陸路を描いた物語、いわゆる道中物の始まりである。東海道五十三次の旅を描いた時代小説は多いが、この作品ほど道中の風俗や様子を自然に物語の中に織り込んだものは少ない。箱根の関所や大井川川越などのシーンも、いままで漠然と理解していた部分がわかりやすく描かれていて興味深かった。
道中物の魅力といえば、旅の道連れである。十時半睡は若党の中村勘平と江戸藩邸の目付役二宮三太夫をお供に、喜兵衛と佐吉という二人の日雇請負人と呼ばれる道中人足を連れていく。三太夫は、寛永以来江戸定府の家柄の藩士で、福岡といえば遠い他国の別天地で、江戸から一歩も外に出たこともないという。珍道中が期待されるところに加えて、いわくのありそうな若党と小者だけを従えて旅をする武家の妻のぶが絡む。
久々に白石さんの作品をゆったりと楽しんでみたい。
- 作者: 白石一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/02/16
- メディア: 文庫
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