「時代小説SHOW」による、2019年文庫書き下ろし時代小説のベスト10を発表します。
対象は、奥付表記が2018年10月1日から2019年10月31日発行の時代小説作品(シリーズ)で、文庫書き下ろし作品になります。単行本の文庫化は対象外です。
※直近の作品までを対象に含めたいという意向から、今回、対象期間を1カ月延ばす調整を行いました。
長谷川卓
講談社・講談社文庫
2019年10月刊行
♪ 戦国時代の甲斐から信州に暮らす、「山の者」たちが生きて死んでいく、伝奇大河ロマンです。武田家の興亡と山の者を率いる「無坂」の最後の活躍を描いています。無坂は、義のために、武田の忍び「かまきり」、徳川の忍び「伊賀者」、上杉の忍び「軒猿」、北条の忍び「風魔」と、ある時は敵にある時は味方になって戦います。対決シーンの圧倒的なスピード感や熱量に興奮が何度も押し寄せます。
今村翔吾
祥伝社・祥伝社文庫
♪ 3年連続の1位はならず。対象期間中の作品は『(七)狐花火』(2018年11月刊)と『(八)玉麒麟』(2019年3月刊)、『(九)双風神』(2019年7月刊)の3作。羽州新庄藩火消頭の松永源吾を中心に据えながらも、毎回、メインの火消ヒーローを変えながら、趣向凝らしたストーリー展開の火消エンタメ小説です。凶悪な火付犯に対して、火消たちが知恵と勇気と友情で立ち向かう姿にスカッとします。
髙田郁
角川春樹事務所・時代小説文庫・ハルキ文庫
♪ 対象期間中の作品は『(六) 本流篇』(2019年2月刊)と『(七) 碧流篇』(2019年8月刊)の2作。大坂天満の呉服商「五鈴屋」は、女主人の幸のもとで、「買うての幸い、売っての幸せ」の店是に、この国一の店を目指し、待望の江戸進出を実現します。大坂と江戸の商いの違いに触れ、いかにして繁盛店を目指すのか、江戸ビジネス小説としても味わえます。
今村翔吾
角川春樹事務所・時代小説文庫・ハルキ文庫
♪ 対象期間中の作品は『(三) 夏の戻り船』(2018年12月刊)と『(四) 秋暮の五人』(2019年4月刊)、『(五) 冬晴れの花嫁』(2019年8月刊)の3作。金さえ積めば、この世の今の暮らしからくらましたい人を助ける、「くらまし屋稼業」の活躍を描く痛快エンタメ小説。剣の達人、堤平九郎、頭脳明晰でくらましの計画を立てる七瀬、何にでも扮装できる赤也の三人が、毎回、困難なシチュエーションの中で、奇想天外な方法で依頼人からの「晦まして欲しい」という願いにこたえていくところが読みどころです。
誉田龍一
早川書房・ハヤカワ時代ミステリ文庫
2019年9月刊行
♪ 2019年の文庫書き下ろし時代小説のニュースの一つは、ハヤカワ時代ミステリ文庫の創刊でした。本書は、創刊ラインナップの一冊。育ての親を失い、代わりに江戸の私立探偵稼業「よろず屋」を引き継ぐヒロインお市のキャラクター設定がユニークで魅力的。ハードボイルドなアクションと謎解きが楽しめます。
知野みさき
講談社・講談社文庫
♪ 対象期間中の作品は『(二) 盗人探し』(2019年10月刊)の1作。浅草の「六軒長屋」の住人は曲者ぞろいで、手に職をもつ者ばかり。その過去も不明ながら、協力し合って長屋の周りで起こった騒動を解決していく痛快人情小説シリーズです。「上絵師 律の似面絵帖」シリーズとは趣きをガラリと変えて、江戸情緒が楽しめ、涙あり、笑いあり、爽快感ありのストーリーが魅力。
芝村凉也
双葉社・双葉文庫
♪ 対象期間中の作品は『(二) 迷い熊衛る』(2018年10月刊)と『(三) 迷い熊阻む』(2019年2月刊)、『(四) 迷い熊猛る』(2019年6月刊)、『(五) 迷い熊奔る』(2019年10月刊)の4作。修行から十年ぶりに江戸に帰ってきた間野生馬は、大男ながら心優しき剣士で、道場に住み着いていた長屋の子供らから、“迷い熊”と呼ばれています。新味のあるヒーロー像と圧巻の剣戟シーンが魅力の痛快人情活劇です。
宮本紀子
角川春樹事務所・時代小説文庫・ハルキ文庫
2019年2月刊行
♪ 櫻部由美子さんの『ひゃくめ はり医者安眠 夢草紙』とともに、2019年印象に残る大江戸ガールズ小説です。小間物商「丸藤」の惣領娘の里久は、慣れない大店の跡取り娘としての生活に戸惑い、失敗の連続ながらも、持ち前の向日性の性格で、次第に店と家族を変えていきます。きめ細やかな心情描写と瑞々しい筆致、魅力いっぱいで、第2作も刊行されて楽しみなシリーズです。
田牧大和
PHP研究所・PHP文芸文庫
♪ 対象期間中の作品は『(六)』(2019年3月刊)と『(七)』(2019年9月刊)の2作。鯖縞柄が美しい雄猫サバと、妹分の縞三毛でまだ幼いさくらの二匹の猫と売れない画描きの拾楽の三人が暮らす「鯖猫長屋」では、いつも不思議な出来事や騒動が起こります。美猫たちと長屋の面々が繰り広げる、おかしくてちょっと切ない人情劇に癒されます。
金子成人
小学館・小学館文庫
♪ 対象期間中の作品は『(二) 蜜柑の櫛』(2019年2月刊)の1作。「付添い屋・六平太」「追われもの」「若旦那道中双六」シリーズと次々に新作を発表する中で、藤沢周平さんの用心棒ものを想起させる本シリーズの読み味の良さを推します。長屋の人々との交流や離れて暮らす妻への思いなど人情味豊かで、時代劇化してほしい作品の一つです。