「時代小説SHOW」による、2018年文庫書き下ろし時代小説のベスト10を発表します。
対象は、奥付表記が2017年10月1日から2018年9月30日発行の時代小説作品(シリーズ)で、文庫書き下ろし作品になります。単行本の文庫化は対象外です。
今村翔吾
祥伝社・祥伝社文庫
♪ 2017年に続き、2年連続の1位は「羽州ぼろ鳶組」シリーズ。対象期間中の作品は『(三)九紋龍』と『(四)鬼煙管』、『(五)菩薩花』、『(六)夢胡蝶』の4作。毎回、火付番付に載るような名物火消たちが次々に登場し、大江戸の火消世界が広がっていきます。「水滸伝」的な物語手法に引き込まれます。多彩な火消ヒーローたちの痛快な活躍が楽しめる、エンターテインメント時代小説です。
知野みさき
光文社・光文社文庫
♪ 対象期間中の作品は『(三)雪華燃ゆ』と『(四)巡る桜』の2作。着物の上絵描きを職業とする職人・上絵師として独り立ちを目指す若い女性・律を主人公に、仕事と恋と事件を描くシリーズ。若い女性の抱える、仕事と恋の二大テーマをしっかりと描いていることが、このシリーズの大きな魅力の一つです。現代の女性に通じるようなヒロインの律に、共感を抱きながら読み進めることができます。
辻堂魁
祥伝社・祥伝社文庫
♪ 対象期間中の作品は『暁天の志』と『修羅の契り』、『銀花』の3作。病弱の妻の薬礼を得んがため人斬りに身をやつした信夫平八とその子、小弥太と織江を主要な登場人物に据えた、「風の市兵衛」シリーズのセカンドシーズン。ストーリー展開のマンネリ化から脱して、市兵衛に新たなる活躍の場とその魅力を増幅させることに成功しています。
鳴神響一
幻冬舎・幻冬舎文庫
♪ 対象期間中の作品は『猿島六人殺し』と『能舞台の赤光』の2作。書家で戯作者として知られる江戸の文人、多田文治郎(後の沢田東江)を探偵役に据え、外部からの侵入が不可能な無人島で起こった連続殺人など、不可思議な事件の謎を解く時代ミステリーです。密室やトリック破りが本格的な推理小説としても楽しめます。
今村翔吾
角川春樹事務所・ハルキ文庫
♪ 対象期間中の作品は『くらまし屋稼業』と『(二)春はまだか』の2作。依頼により、失踪を手助けする「くらまし屋稼業」。類まれな剣技を発揮する堤平九郎がリーダーを務め、頭脳明晰な美人・七瀬、変装の名人・赤也が、それぞれ特技を生かして手伝います。強力な敵「炙り屋」も登場して、くらましに至るプロセスを描くストーリーが面白くて、読みだしたら止まらない疾走感あふれるエンターテイメント時代小説です。
髙田郁
角川春樹事務所・ハルキ文庫
♪ 「みをつくし料理帖」シリーズ完結から4年、登場人物たちのその後を描いた特別巻。澪と源斉の夫婦が危機を乗り越えて奮闘していく様子や、御膳奉行の小野寺数馬とその妻・乙緒の一風変わった暮らしぶりなど、ファンならずとも味わって読みたいハートウォーミングな短編集です。
千野隆司
双葉社・双葉文庫
♪ 対象期間中の作品は『(二)塩の道』と『(三)紫の夢』、『(四)麦の滴』、『(五)無節の欅』、『(六)一揆の声』の5作。1石でも減らされれば大名の地位を失う瀬戸際の小藩、下総高岡藩1万石。その世子(次期藩主)となった井上正紀が、次々と襲う藩財政危機に立ち向かい、行動力と勇気と周囲の者たちの協力で乗り越えていく痛快な武家小説です。
阿部暁子
集英社・集英社文庫
♪ 南朝の帝の妹宮・透子は、北朝に寝返った武士・楠木正儀を連れ戻すべく京へやってきます。世間知らずで無鉄砲な姫宮の冒険に、ページを繰る指にもつい力が入り、ハラハラドキドキが止まりません。奇想天外なストーリー展開、今どきの会話ながらも、史実などディテールはしっかりしていて、南北朝時代に触れるには最適な時代小説です。
田牧大和
PHP研究所・PHP文芸文庫
♪ 対象期間中の作品は『鯖猫長屋ふしぎ草紙(四)』、『鯖猫長屋ふしぎ草紙(五)』の2作。美猫サバが暮らす鯖猫長屋を舞台にした「大江戸謎解き人情ばなし」。サバの妹分のさくらに化け猫疑惑が持ち上がる話などを収録した第四巻、サバの飼い主で売れない絵描きの拾楽と昔馴染み女盗賊が引き起こす騒動を描く第五巻。猫好きにはたまらない、読むごちそうです。
池寒魚
集英社・集英社文庫
♪ 対象期間中の作品は『隠密絵師事件帖』と『(二)ひとだま 隠密絵師事件帖』の2作。幕末の品川宿、絵師で旅籠の用心棒を生業にする司誠之進は、磐城平藩の隠密という裏の顔を持っています。藩主は幕府の要職を務め、坂下門外の変でも知られる安藤対馬守です。『ひとだま』には、高杉晋作や土方歳三も登場します。本書のモチーフを描いた装画により暗い印象で損をしていますが、隠れた傑作時代小説の一つです。