「時代小説SHOW」による、2019年単行本時代小説のベスト10を発表します。
対象は、奥付表記が2018年10月1日から2019年10月31日発行の時代小説作品で、単行本として刊行されたものになります。
※直近の作品までを対象に含めたいという意向から、今回、対象期間を1カ月延ばす調整を行いました。
川越宗一
文藝春秋
2019年9月刊行
♪ 樺太を舞台に、明治から大正にかけて激動の時代を生きた、実在の樺太アイヌ山辺安之助(アイヌ名ヤヨマネクフ)の生涯を描いた歴史冒険小説。ヤヨマネクフは、ポーランド人でアイヌ文化を研究するブロニスワフ・ピウスツキとの出会いによって、アイヌとしての生き方に目覚めていきます。明治の文明開化政策とロシア革命を背景にした、スケールの大きな歴史時代小説です。
今村翔吾
新潮社
2019年7月刊行
♪ 「賤ケ岳の七本槍」と呼ばれた、羽柴秀吉と柴田勝家の戦いで、戦功が著しい秀吉子飼いの家臣たちを描いた戦国時代小説。七本槍こと、加藤清正、脇坂安治、福島正則らの賤ケ岳の戦い前後の逸話を順に描いていきます。秀吉の小姓として七本槍ともに同じ釜の飯を食い、切磋琢磨した、「八本目の槍」となる石田三成とのやり取りが面白く、三成の人間像を鮮やかに描き出しています。
大島真寿美
文藝春秋
2019年3月刊行
♪ 歌舞伎や人形浄瑠璃の演目、「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」などの名作を生んだ人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた芸術小説。半二の代表作となる「妹背山婦女庭訓」の創作秘話がドラマティックに描かれ、馴染みの薄い、大坂の人形浄瑠璃の世界が、臨場感豊かに描かれていきます。
東郷隆
エイチアンドアイ
2019年4月刊行
♪ 元宮中楽人にして催眠術使いの風祭の小太郎。そして、足利将軍の申次衆の伊勢新九郎(後の北条早雲)が京で出会い、やがて東へ下って躍動する戦国伝奇小説。博覧強記の著者が最先端の歴史研究、時代考証を取り入れる一方で、著者の一連の作品に貫かれた幻想性とエンターテインメント性が見事に融合されています。
木下昌輝
徳間書店
2019年5月刊行
♪ 百済から連れてこられた宮大工が創業した世界最古の建設会社、金剛組と、彼らによる四天王寺の五重塔建造のドラマを描いた歴史時代小説。この木造の五重塔は、百済から渡来した金剛重光によって建てられ、兵火や落雷により七度も破壊されつつも、そのたびに蘇り、千四百年にわたり屹立してきました。一度も地震で倒壊したことがないという秘密を解き明かします。
木内昇
日本経済新聞出版社
2019年9月刊行
♪ 幕末時代小説では好意的に描かれることが少ない、そのため実態がよくわからなかった幕臣たちの外交史に光を当てた長編小説。鼻っ柱の強い若者田辺太一が、お城に上がって、異能の幕臣たちの間で東奔西走し、成長していきます。日本の外交史の始まりに触れながら、幕府側の視点から、幕末を俯瞰できます。
朝井まかて
双葉社
2019年9月刊行
♪ 徳川幕府公認の遊郭・吉原の黎明を描いた傑作長編小説。遊女屋の女将・花仍(かよ)が、傾城商いに奮闘していく商売繁盛記です。建設途上で雑然としながらも活気あふれる江戸の色町の空気が伝わってきます。江戸初期を舞台に、黎明期の吉原の情景を丹念に描いていて興味深い作品です。
澤田瞳子
新潮社
2019年10月刊行
♪ 徳川幕府の終焉とともに幽閉先から東京に戻った妖怪こと、元南町奉行鳥居耀蔵(胖庵)は、江戸の風情を求めて訪れた上野の山で、若き能楽師豊太郎と出会います。胖庵と、若き能楽師の豊太郎の老青コンビが、市井の事件を解決していく連作時代小説。江戸から急激に変貌を遂げる、明治初年の東京の情景が活写されています。
植松三十里
PHP研究所
2019年4月刊行
♪ 世界的建築家、フランク・ロイド・ライトが設計し、大正時代を代表する建築物帝国ホテル「ライト館」の完成までの長い道のりを描いた歴史小説。ライトをはじめ、帝国ホテル建築に携わった多くの人たちと、建造物そのものに光を当てています。綿密な調査と巧みな物語構成で、リアリティあふれる作品に引き込まれました。
泉ゆたか
KADOKAWA
2018年12月刊行
♪ 吉原の遊女に夫を寝取られて離縁され、髪結の仕事を始めた梅を主人公に、吉原を舞台に遊女たちの生き様を情感豊かに描いた女性小説。遊郭一の花魁や寒村から売られてきた娘との交流を通じて成長していく梅がしっかりと描かれています。ドラマ性もあって、読み味の良い作品です。