『柝の音響く めおと旅籠繁盛記』|千野隆司|小学館文庫
千野隆司(ちのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『柝の音響く めおと旅籠繁盛記』(小学館文庫)を紹介します。
なお、第1巻『めおと旅籠繁盛記』では、文庫巻末の解説を担当させていただきました。

江戸・日本橋から数えて中山道最初の宿場、板橋宿を舞台に描かれる本作は、貧乏旅籠「松丸屋」の一人娘・お路と、そこに身を寄せる元無宿者・直次の奮闘を描く時代小説シリーズの第2弾です。
貧乏旅籠、背水の陣!
大金二十一両の返済期限はわずか二カ月後。板橋宿の貧乏旅籠・松丸屋が、存続の危機に直面する。駕籠屋を営む蕨宿の岩津屋から借りた二十一両の返済期日が、あと二か月に迫っていたのだ。
そんな折、松丸屋に身を寄せていた元無宿者の直次は、宿泊客から芝居興行に大金が動くという話を耳にする。
「返済のためには板橋宿に芝居を呼ぶしかない」――そう決意した直次だったが、場所の確保、一座の誘致、資金集めに客の動員と、困難は山積み。
それでも、自分を受け入れてくれた松丸屋のため、直次は皆と力を合わせ、ひとつずつ課題を乗り越えていく。
だが、その動きを快く思わない者たちも現れ……。再起を賭けた奮闘の物語が、いま幕を開ける。
(『柝の音響く めおと旅籠繁盛記』カバー裏の紹介文より抜粋・編集)
本書の読みどころ
千野隆司作品の魅力の一つは、主人公が困難に直面しながらも、知恵と努力で乗り越え、周囲の信頼と絆を得ていくところにあります。
時代劇の一場面のような型を踏みつつも、読者に大きなカタルシスを与えてくれる構成は、毎巻安定の読み応えです。
加えて本シリーズでは、展開の“型”こそ共通していても、毎回異なる危機の内容や意外な解決法によって、読者を飽きさせません。
今回は、松丸屋に襲いかかる借金返済問題が主軸。貧乏旅籠にとっては大金である二十一両を、二か月後に返済しなければならないという状況が描かれます。
貸主は、隣町・蕨宿で駕籠屋と金貸しを営む分限者・岩津屋傳左衛門。返済できなければ、旅籠そのものか娘のお路を奪われるという、まさに存亡の危機です。
当主の喜兵衛は金策の目途が立たず、女将のお久や娘のお路にも策がない中、直次は偶然知った「宮地芝居」(寺社の境内などで臨時に許可を得て上演される芝居)に活路を見出します。
自分を助けてくれた松丸屋への恩を返すべく、直次は芝居興行の準備に奔走します。
果たして彼は、無事に芝居を成功させ、松丸屋を救うことができるのか――?
芝居小屋の手配から一座の誘致、宣伝、客集め、さらにはスポンサー探しまで、成功の鍵は一つひとつの課題をどう乗り越えるかにかかっています。
返済のために始めたはずの芝居興行が失敗すれば、逆に借金がふくらむという緊迫感の中、ページをめくる手が止まりません。
知られざる「宮地芝居」の世界を知る楽しみも加わり、ラストまで一気読み必至の一作です。
今回取り上げた本
書籍情報
柝の音響く めおと旅籠繁盛記
千野隆司
小学館 小学館文庫
2025年4月9日初版第1刷発行
カバーイラスト:しまざきジョゼ
カバーデザイン:大岡喜直(next door design)
●目次
前章 返済期日
第一章 宮地芝居
第二章 元興行師
第三章 資金調達
第四章 燃える小屋
第五章 宿場の住人
本文279ページ
文庫書き下ろし
