新・口中医桂助事件帖 シーボルト花|和田はつ子|小学館文庫
和田はつ子さんの文庫書き下ろし時代小説、『新・口中医桂助事件帖 シーボルト花』(小学館文庫)が新たに本棚に加わりました。
本作は、アメリカで最新の口中医療を学び、日本へ帰国した口中医・藤屋桂助 の活躍を描く「新・口中医桂助事件帖」シリーズの第3巻です。
物語のあらすじ
文部省医務局長・長与専斎の説得を受け、医術開業試験の試験官 を引き受けることになった桂助のもとに、新たな虫歯削り機が届く。鋼次とともに、この機械を使いこなせる人材を求めていたある日、試験を受験予定の若者・小幡英之助 が桂助のもとを訪れる。
そんな折、江戸ではうさぎの飼育ブーム が巻き起こり、人気の高い品種は高額で取引されていた。その過熱ぶりに、東京や大阪では「うさぎ税」まで導入される事態に。そんな中、名家で起こったうさぎ泥棒事件 の調査を依頼された桂助は、金五とともに真相を追うが……。
(『新・口中医桂助事件帖 シーボルト花』カバー帯の紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
1.最先端の歯科技術と時代背景
本書の舞台は明治七年(1874年)。当時、歯科医(口中医)は主に虫歯を抜く治療を行っていましたが、桂助はアメリカで学んだ虫歯削り機を用い、虫歯を削って金属で充填する「抜かない治療」を広めようとしていました。
文部省の長与専斎は、桂助の技術を高く評価し、最新機器を贈呈。さらに、西洋流の歯科治療を習得できる口中医の育成を依頼します。そこで桂助は、診療所“いしゃ・は・くち”で修業希望者を募集するのですが、厳しい試験を突破できる者はほとんどいませんでした。
そんな中、中津出身の青年・小幡英之助が修行を志願し、桂助のもとを訪れます。この出会いが、新たな展開を生むことになります。
2.うさぎブームと経済の変化
第二話「うさぎ草」では、明治五年ごろから始まった「うさぎ投機ブーム」が取り上げられています。当時、珍しい品種のうさぎが高額で取引され、ついには「うさぎ税」(うさぎ1羽につき月額1円=現代の約2万円)まで課せられるほどの社会現象になりました。
本作では、そのうさぎブームの裏に隠された事件の真相が明かされていきます。史実を交えたミステリー要素が、物語にさらなる深みを与えています。
3.実在の歴史人物との関わり
本作には、長与専斎(初代文部省医務局長)や川路利良(日本の近代警察制度を築いた大警視)などの実在の歴史人物が登場。さらに、新キャラクターとして小幡英之助が加わり、物語の厚みを増しています。
史実を巧みに織り交ぜながら、桂助が医師としてだけでなく、事件の解決にも関わる様子が描かれ、読者を惹きつけます。
まとめ
本作は、当時の最新歯科技術と明治の時代背景を融合させた歴史ミステリー であり、歯科医療の進歩だけでなく、当時の社会の変遷や人々の暮らしもリアルに描かれています。さらに、桂助の妻・志保、助手の鋼次、幼馴染みで事件の調査を手伝う金五 らが、それぞれの立場から桂助を支えています。治療に奔走しながら、不可思議な事件の解明にも挑む桂助の姿が、本作の大きな魅力となっています。
「新・口中医桂助事件帖」シリーズをまだ読んだことがない方も、ぜひ本作から読んでみてはいかがでしょうか?
今回取り上げた本
書籍情報
新・口中医桂助事件帖 シーボルト花
和田はつ子
小学館・小学館文庫
2025年2月11日初版第一刷発行
カバーイラスト:洵
カバーデザイン:山田満明
目次:
第一話 シーボルト花
第二話 うさぎ草
第三話 曼珠沙華
第四話 待雪草
本文364ページ
文庫書き下ろし
![](https://www.jidai-show.net/wp/wp-content/uploads/2021/01/480024448X-160x90.jpg)