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二・二六事件の裏で起きた、昭和史を揺るがすもう一つの事件

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路地裏の二・二六|伊吹亜門|PHP研究所

路地裏の二・二六 (単行本)伊吹亜門(いぶき・あもん)さんの『路地裏の二・二六』(PHP研究所)を紹介します。

今年、令和7年(2025年)は、「昭和100年」にあたる節目の年です。特に昭和の最初の20年間(1926~1945年)は、日本が戦争に向かっていた時代であり、社会や生活、価値観が現代とは大きく異なります。戦後生まれの私にとっては、想像することさえ難しい特別な時代です。

近年、これまで苦手意識があった「戦争の時代」を扱った歴史小説を読む機会が増え、その面白さを実感するようになりました。そうした流れの中で手に取った本書は、昭和11年(1936年)の二・二六事件と、その裏で起きた「もう一つの事件」を描いた本格歴史ミステリーです。

著者の伊吹亜門さんは、2018年に『刀と傘 明治京洛推理帖』でデビューし、翌2019年には同作で第19回本格ミステリ大賞(小説部門)を受賞。また、「ミステリが読みたい!2020年版」国内篇では第1位を獲得しました。

その後も、2021年『幻月と探偵』で第24回大藪春彦賞候補、2024年『焔と雪 京都探偵物語』で第77回日本推理作家協会賞候補となり、幕末から昭和を舞台にした歴史ミステリー作家として注目されています。

新着本の紹介のつもりで本書を手に取ったのですが、読み始めるとすぐにストーリーに引き込まれ、気づけば半分近くまで読んでいました。
これはもう、しっかり感想を書こうと方針を変え、最後までじっくり楽しみました。

物語のあらすじ

青年将校たちの決起の裏で起きていた「もう一つの事件」とは!?
昭和10年(1935)8月12日、陸軍省にて相沢三郎歩兵中佐が軍務局長・永田鉄山少将を惨殺する事件が発生。
その場には、もう一人の人物がいた——。
憲兵大尉浪越破六(なみこし・はろく)は、この事件には語られていない「真実」があると確信する。
そんな折、浪越は渡辺錠太郎陸軍大将から、ある命を受けることに。
そして運命の日二・二六事件に向けて、カウントダウンが始まる——。
気鋭のミステリ作家が、二・二六事件と同時進行していた「ある事件」を大胆に描き出す本格長編。

(※カバー帯およびAmazon紹介文より抜粋・編集)

読みどころ

本書の核となる「相沢事件」(1935年)は、皇道派と統制派の対立が背景にあった軍内部の衝撃的事件であり、翌年の二・二六事件へとつながる重要な出来事でした。

事件当時、犯行現場には東京憲兵隊長や兵務課長も在室しており、憲兵隊長は重傷を負い、兵務課長は難を逃れています。その後、兵務課長は醜態をさらした責任を取る形で自決。

この事件の真相に迫るため、憲兵大尉・浪越破六は、渡辺錠太郎大将の命を受け兵務課長の身辺調査に乗り出します。しかし、調査の過程で再び衝撃的な事件が発生。
その日、浪越が陸軍省を訪れると、庶務課長の古鍛治陸軍歩兵大佐が皇道派の過激将校・米徳歩兵少佐によって斬殺され、その場で米徳少佐も拳銃自決——まさに「相沢事件」の再現のような出来事が起きていたのです。

魅力的な主人公と緊迫感ある展開
本書の面白さの一つは、主人公である浪越破六の捜査スタイルにあります。
彼は、警察のようなペア捜査ではなく、単独で危険に飛び込んでいくハードボイルドな探偵。
時には暴力も辞さない捜査術で真相に迫る姿勢は、現代の倫理観とは一線を画しつつも、当時の軍事警察の臨場感を生々しく描き出しています。

事件の本筋よりも、むしろ「もう一つの事件」の顛末を追うことで、二・二六事件発生前夜の青年将校たちの熱量と緊張感が鮮やかに伝わってきます。
こうした構成により、単なる歴史小説ではなく、リアリティに満ちた昭和史ミステリーとして際立った作品になっています。

さらに、伊吹作品のファンには『焔と雪 京都探偵物語』の探偵・鯉城武史が登場する点も見逃せません。

関連書籍のおすすめ
二・二六事件をテーマにした歴史小説を読みたい方には、谷津矢車さんの『二月二十六日のサクリファイス』もおすすめです。

今回取り上げた本





書籍情報

路地裏の二・二六
伊吹亜門
PHP研究所
2025年2月12日第1版第1刷発行

装幀:芦澤泰偉
装画:影山徹

目次
なし

本文378ページ
書き下ろし

伊吹亜門|時代小説ガイド
伊吹亜門|いぶきあもん|ミステリー作家1991年、愛知県生まれ。同志社大学卒業。2015年、短編「監獄舎の殺人」で第12回ミステリーズ!新人賞を受賞。2019年、『刀と傘 明治京洛推理帖』で、第19回本格ミステリ大賞小説部門を受賞。2020...