遊廓島心中譚|霜月流|講談社
少し前に読んだ本ですが、紹介する機会がないまま年を越してしまいました。申し訳ありません。今回取り上げるのは、第70回江戸川乱歩賞を受賞した霜月流(しもつき・りゅう)さんの『遊廓島心中譚』(講談社)です。
私、理流はミステリー界隈にはあまり詳しくないのですが、受賞作が現代ではなく幕末を舞台にした時代ミステリーと聞き、俄然興味を持ちました。
物語のあらすじ
幕末の日本。幼い頃から美しい石にしか興味のなかった町娘・伊佐のもとに、父・繁蔵の訃報が届く。
木挽き職人だった父の遺骸には、横浜・港崎遊廓(通称:遊廓島)の遊女屋「岩亀楼」および遊女「潮騒」の名が記された鑑札が添えられていた。さらに父には、攘夷派の強盗に加担し町娘を殺害した容疑までかけられていた。
父の無実と死の真相を確かめるため、伊佐はかつての父の弟子・幸正の助けを借りて、外国人の妾(らしゃめん)として遊廓島に乗り込む。
そこで彼女が出会ったのは、「遊女殺し」の異名を持つ英国海軍将校・メイソンだった。初めはメイソンを恐れていた伊佐だが、彼の宝石のような美しい瞳と実直な人柄に惹かれていく。そして、彼の助けを得ながら事件の真相に近づいていくが……。(『遊廓島心中譚』カバー帯の紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
文久三年五月、木挽き職人の娘・伊佐は、あめじすと(紫水晶)を手にしたことをきっかけに石に魅了され、美しい石への執着を深めていきます。同時期、江戸では「心中箱」という儀式が流行していました。結ばれない男女が箱を作ることで想いを伝え合い、添い遂げることができるという噂です。
そんな中、父・繁蔵が攘夷派の強盗に加担し、町娘を殺害した嫌疑をかけられたうえ、永代橋付近で黒焦げの遺体となって発見されます。その傍らには「岩亀楼(がんきろう)」「潮騒」と記された鑑札が――。
岩亀楼は横浜・港崎(みよざき)遊廓にある遊女屋で、「潮騒」は遊女か外国人妾の名だといいます。父の無実を晴らすため、伊佐は父の元弟子・幸正の手配で、らしゃめん(外国人の妾)となり岩亀楼へ向かうことに。
物語は、伊佐と、心中という愛の形に囚われた女易者・鏡(きょう)の視点を交互に描きながら進みます。鏡もまた、ある目的を抱え、らしゃめんとなっていました。
彼女たちの運命が交錯し、物語は次第にスケールの大きな展開へ。尊攘派の嵐が吹き荒れる幕末、国際的な舞台である岩亀楼で何が起こったのか。ミステリーとしての緊張感と歴史ものとしての魅力が絡み合い、大いに楽しめました。
巻末には、江戸川乱歩賞の選考過程や委員のコメントが収録されており、選考の様子が伝わってくるともに、4時間半にわたる激論を経て完成した本作の裏側を知ることができます。問題点を修正し、ブラッシュアップされた作品を読むことができる我々読者は幸せです。
次回作ではどの時代にどんな物語を描くのか、非常に楽しみな作家の登場です。
今回取り上げた本
書籍情報
遊廓島心中譚
霜月流
講談社
2024年10月21日第1刷発行
装幀:bookwall
装画:いとうあつき
地図・岩亀楼イラスト:芦刈将
目次:
鏡 其の一
伊佐 其の一
伊佐 其の二
鏡 其の二
伊佐 其の三
伊佐 其の四
鏡 其の三
伊佐 其の五
伊佐 其の六
伊佐 其の七
伊佐 其の八
主要参考資料
江戸川乱歩賞の沿革及び本年度の選考経過
江戸川乱歩賞受賞リスト
第71回江戸川乱歩賞応募規定
本文330ページ
第70回江戸川乱歩賞応募作を、選考会の意見を踏まえて、単行本刊行にあたり加筆修正したもの。