『さむらい 〈武士〉時代小説傑作選』|細谷正充編|PHP文芸文庫
細谷正充(ほそや・まさみつ)さん編の『さむらい 〈武士〉時代小説傑作選』(PHP文芸文庫)が本棚に新たに加わりました。
本書は、書評家であり名アンソロジストでもある細谷正充さんが手掛けた、武家小説の短編を集めたアンソロジーです。
シリーズ累計50万部を超える人気シリーズの第18弾にあたる本作は、毎回1つのテーマで秀作を集めるアンソロジーシリーズの一環で、今回は初めて武家小説をテーマにしています。
物語のあらすじ
武家のさだめに生きる者たちの悲哀と喜びの物語
いつも厳しかった姑が亡くなったばかりの武家の妻(「ふところ」中島要)、瀬戸物屋の五男坊から御家人の養子となり出世を目指すことになった男(「小普請組」梶よう子)、甘味好きの父がなぜか団子だけは口にしないことに気づいた娘(「最後の団子」佐藤雫)など、武士とその家族をさまざまな角度から描いた短編5作を収録。
武家のしきたりに振り回されながらも、懸命に生きる人々の姿に心打たれる名作アンソロジーです。(『さむらい 〈武士〉時代小説傑作選』カバー裏の紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
武家小説とは、武士の社会における政争、忠義、矜持、体面、しきたり、夫婦や親子、嫁姑といった人間関係をテーマに描く物語です。武家のさだめに生きる者たちの喜怒哀楽を鮮やかに描き出すジャンルで、かつては山本周五郎さん、藤沢周平さん、池波正太郎さんなどが多くの名作を発表したことで、時代小説の人気ジャンルの一つとなりました。
本書では、現在を代表する人気女性作家たちの作品が集められている点が注目ポイントです。その中でも唯一の書き下ろし作品である、佐藤雫(さとう・しずく)さんの「最後の団子」に注目してみましょう。
「最後の団子」の紹介
佐藤雫さんは、鎌倉幕府三代将軍・源実朝を描いた歴史小説『言の葉は、残りて』で第32回小説すばる新人賞を受賞し、2020年にデビュー。その後も、長編歴史小説を次々に発表し、近作『行成想歌』では藤原行成、一条天皇、中宮定子を取り上げるなど、歴史上の人物の愛のあり方を描くことで定評のある作家です。
本編「最後の団子」では、四千石の大身旗本・水野家の12歳になる娘・綾が、風邪で寝込んでいるとき、父・菖三郎の若き日の出来事を守役の茂七に語ってもらう物語が描かれています。大身旗本の姫君という設定もユニークで、佐藤さんらしい視点と語り口が光る一編となっています。
胸がキュンとする感動的な時代小説として、本書の中でもおすすめの作品です。
今回取り上げた本
書籍情報
さむらい 〈武士〉時代小説傑作選
細谷正充編
あさのあつこ・中島要・梶よう子・佐藤雫・朝井まかて
PHP研究所・PHP文芸文庫
2025年1月20日第1版第1刷
装丁:芦澤泰偉+明石すみれ
装画:卯月みゆき
目次:
花散らせる風に(あさのあつこ『もう一枝あれかし』文春文庫より)
ふところ(中島要『御徒の女』実業之日本社文庫)
小普請組(梶よう子『立身いたしたく候』講談社文庫)
最後の団子(佐藤雫 書き下ろし)
落猿(朝井まかて『草々不一』講談社文庫)
解説 細谷正充
本文256ページ
PHP文芸文庫のオリジナル編集