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【新着本】阿部圭いち『海翔けた龍の記憶』天保の大飢饉を描く

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海翔けた龍の記憶 ―叶わぬ願い 想いの先に―|阿部圭いち|文芸社

海翔けた龍の記憶 ―叶わぬ願い 想いの先に― (文芸社)阿部圭いち(あべ・けいいち)さんの『海翔けた龍の記憶 ―叶わぬ願い 想いの先に―』(文芸社)が、本棚に新たに加わりました。

本書は、江戸時代天保年間の大飢饉で困窮する三陸沿岸漁村の多くの命を救った仙台藩領・大須浜の豪商、阿部家の若き当主・寿保(じゅほ)の成長を描いた物語です。

著者の阿部さんは阿部家の直系ご子孫で、宮城県東松島市在住。
水産業に関わる地域振興や東日本大震災の復興業務にも従事されていました。
2011年の東日本大震災を契機に、宮城の海を生業の場として生きてきた人々の歴史や文化、民俗の記憶を未来に紡ぐ想いで執筆活動を始めたとプロフィールに記されています。

天保の大飢饉は天保四年(1833)に始まり、天保十年(1839)まで続きました。
大雨や冷害による凶作で、特に東北地方の被害は甚大で、都市部では米価急騰から打ちこわしが頻発し、大塩平八郎の乱の原因にもなっています。

本書によれば、仙台藩では八年間で藩内人口の約二割(約九万人)が犠牲となり、特に石巻・牡鹿地域では死者が八千人を超えたとも伝えられています。
なぜこれほど多くの死者が出たのでしょうか?

物語のあらすじ

天保の飢饉――仙台藩、三陸の大須浜(おおすはま)には「貧困」も「飢饉による餓死者」もなかった!
「お月様より殿様よりも、大須旦那がありがたい」と浜甚句に謳われた海の商人、阿部家。若き当主・寿保は、大飢饉の年に秋田から三千俵の救済米を運び入れる大事業を成し遂げた。この偉業により、三陸沿岸漁村の多くの命が救われ、雄勝十五浜から餓死者が一人も出なかったという。一方、吉原一の太夫との悲恋は、幼い頃からの縁と仙台藩の謀略が絡み……。

(『海翔けた龍の記憶 ―叶わぬ願い 想いの先に―』カバー帯の紹介文より抜粋・編集)

読みどころ

本書は、天保の大飢饉による甚大な被害に対し、私財を投じて多くの命を救った阿部源左衛門寿保の生涯を描いた歴史小説です。
文化十二年(1815)、桃生郡(現在の石巻市)雄勝町大須浜に生まれた寿保は、二十二歳の若さで仙台藩主・伊達斉邦の命を受け、秋田から三千俵の救済米を運び入れるという偉業を成し遂げました。

阿部家は廻船業と漁業を営み、仙台藩領から蝦夷地までを商いの場としていましたが、得た財を三陸沿岸漁村の救済に注ぎ込みました。
その結果、栄華とは無縁の暮らしを送っていたともいわれます。

本書では、奥州藤原氏の落人とも伝わる謎多き阿部家と寿保の活躍、さらには吉原遊女との悲恋を描いた怒涛の520ページ超えの大長編となっています。
歴史と人間ドラマが織りなす物語を、ぜひお楽しみください。

今回取り上げた本
書籍情報

海翔けた龍の記憶 ―叶わぬ願い 想いの先に―
阿部圭いち
文芸社
2024年10月15日初版第一刷発行

NORIMA / PIXTA(ピクスタ)
kawano / PIXTA(ピクスタ)
J BOY / PIXTA(ピクスタ)
“image: Freepik.com 著作者:Freepik
カバーデザイン:谷井淳一

目次:
MAP
【プロローグ 若き当主と阿部一族】

第一章 阿部という一族 天保三年・四年
 第一項 一通の書状 × 惨禍の兆し × 試される人間
 第二項 使命を背負った子 × 救済の在り方 × 阿部家の女たち
 第三項 爺様の隠し事 × 父の死の真相 × 家督相続
 第四項 当主の書斎 × 浜の暮らし × 源左衛門の死
 
第二章 石巻、そして江戸へ 天保五年
 第一項 街の闇 × 一人の娘 × 不穏な影
 第二項 蝦夷地へ × 試練の時 × 江戸での縁
 第三項 巧妙な細工 × 新たな商い × 怪異と異変
 
第三章 苦難を乗り越えるための航路 天保六年
 第一項 認められればこそ × 漁師たち × 海賊船
 第二項 新たな千石船 × くめと佐吉 × 江戸での取引
 第三項 吉原の新造 × 有言実行 × 育ちゆく種
 第四項 青木の神さん × 城への書状 × 募る想い
 
第四章 想いの果てに…… 天保七年
 第一項 惨禍の始まり × 浜の救済 × 一途な想い
 第二項 御直書 × 当主の決断 × 姿なき影
 第三項 身請け話 × 吉野太夫 × 楼主の謀
 第四項 二人の想い × 敵の名 × 一夜の出来事
 第五項 人を操る呪法 × 手付金 × 古狸の企み
 第六項 寿保と吉野 × しばしの別れ × 両替商
 第七項 家族の出迎え × 寿保の計略 × 事を成す者
 第八項 吉原での企み × 人との繋がり × 救済米の搬入
 
第五章 民の安寧のために 天保八年
 第一項 吉野の病 × 最良の日取り × 真実
 第二項 センとの出会い × 身請け金 × 心に巣くう傷
 第三項 花魁道中 × 吉野の想い × くめの涙
 第四項 捕鯨の始まり × 大須浜の話 × 行く末を見据えて
 
【エピローグ 紡ぐ想いは時代を超えて】

引用参考文献 一覧

本文527ページ
書き下ろし

阿部圭いち|時代小説ガイド
阿部圭いち|あべけいいち|作家宮城県女川町出身、東松島市在住。2024年、天保の大飢饉を描いた歴史小説『海翔けた龍の記憶 ―叶わぬ願い 想いの先に―』を刊行。時代小説SHOW 投稿記事→阿部圭いちの本(Amazonより)⇒時代小説作家リスト...