恋する女帝|周防柳|中央公論新社
周防柳(すほう・やなぎ)さんの『恋する女帝(みかど)』(中央公論新社)が、私の本棚に新たに加わりました。
2022年に、天才歌人藤原定家の恋と彼が選んだ小倉百人一首の謎を描いた鎌倉ミステリー『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』(中公文庫)で第28回中山義秀文学賞を受賞した著者。その受賞後初の作品は、奈良時代に女性として皇位を継承した孝謙天皇(称徳天皇)を描いた歴史ミステリーです。
物語のあらすじ
奈良の都 最大の醜聞 女帝と「日本三悪人」道鏡の許されぬ恋の真相は――?
天平文化華やかなりし世に即位する孝謙天皇(のちに称徳天皇として重祚)は、「奈良の大仏」造立で知られる父・聖武天皇の後継者として、二十一歳で史上唯一の女性皇太子となった。皇位継承後、近臣・藤原仲麻呂に支えられ治世は安定しているかに思われたが……。
「女帝はみな、わが腹を痛めた子への橋渡しとして、帝の役目を果たしてきた。しかし、朕は違う。朕は朕のために玉座につく。この国で初めておのれのための女帝となる」
(『恋する女帝』カバー帯の紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
孝謙天皇(重祚後は称徳天皇)といえば、「日本三悪人」(ほかの二人は平将門と足利尊氏)に挙げられる道鏡との恋愛スキャンダルの影響もあって、悪評高い女性天皇として知られています。しかし、果たしてその実態はどうだったのでしょうか?
孝謙天皇は聖武天皇と藤原氏出身の光明皇后の間に生まれ、女性で初の皇太子となり、聖武天皇の譲位後、女性として史上六人目の天皇に即位しました。
上皇時代も含めてその治世は、橘奈良麻呂の乱や藤原仲麻呂(恵美押勝)の乱など、皇統争いや権力闘争が相次ぐ混沌とした時代でした。
本書は、激動の天平時代を背景に、女帝と道鏡との恋、皇統の謎、そして女性天皇の素顔を描いた歴史ミステリーです。
歴史的に、女性天皇は天皇であった夫を亡くした未亡人や独身の娘が皇位に就くことが多く、中継ぎ的な存在とされてきました。そのため、恋愛、結婚、出産などは事実上許されていませんでした。
そのような制約の中で、称徳天皇が寵愛した僧・道鏡との恋とはどのようなものだったのでしょうか?その結末は?
奈良時代を舞台とした歴史小説は少ないうえ、本作の題材は興味深く、名手の筆でどのように描かれていくのか期待が膨らみます。
今回取り上げた本
書籍情報
恋する女帝
周防柳
中央公論新社
2024年12月25日初版発行
装画:マツオアキコ
装幀:片岡忠彦
目次:
序章 神託
一章 うるわしの姫天皇
二章 弓削から来た禅師
三章 奴を王と呼ぶとも
四章 大枝の里の刺客ども
五章 東の国の空の下
本文362ページ
「婦人公論」(2023年7月号~2024年10月号)に連載された「恋する女帝」を加筆・修正したもの