2024年時代小説(単行本/文庫書き下ろし)ベスト10、発表!

ひよっこ同心と凄腕の元同心が難事件に挑む、王道の時代小説

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落としの左平次|松下隆一|時代小説文庫

『落としの左平次』(時代小説文庫)松下隆一(まつした・りゅういち)さんの『落としの左平次』(時代小説文庫)を紹介します。

松下さんは、NHK時代劇『雲霧仁左衛門シリーズ』や、多数の国際映画祭で賞を受賞した映画『事実無根』の脚本家として活躍する一方、時代小説家としても注目を集めています。2020年には『羅城門に啼く』第1回京都文学賞を受賞し、2023年には『侠(きゃん)』第6回細谷正充賞、2024年には第26回大藪春彦賞を受賞するなど、ますます活躍の場を広げています。

本書は、著者初の文庫書き下ろし作品で、王道の捕物小説です。

物語のあらすじ

佐々木清四郎、齢十八歳。定町廻り同心となり三年が経つものの、いまだ見習い同然の扱いを受けています。そんなある日、上役から「左平次預かり」を命じられます。

左平次は、かつて「落としの左平次」と呼ばれた南町奉行所の凄腕の同心でしたが、ある理由で引退し、現在は町人の身分で暮らしています。どうやら左平次は、清四郎の亡き父の元同僚のようです。

初任務として、娘の亡骸が運び込まれた番屋で清四郎は左平次と出会いますが、早速怒鳴られる羽目に。厳しくも温かい指導のもと、清四郎は一人前の同心を目指して奮闘します。
また、作中には鰻丼や錦糸丼といった美味しそうな料理も登場。ノンストップで楽しめるエンターテインメント時代小説シリーズの幕開けです。
(※カバー裏紹介文より抜粋・編集)

本書の読みどころ

清四郎と左平次の「バディ捕物劇」
主人公の佐々木清四郎は、亡き父の跡を継ぎ定町廻り同心となったものの、いまだ独り立ちできない未熟者。そんな彼が筆頭同心の浅沼庄左衛門から命じられた「左平次預かり」の任務を通じて成長していく姿が描かれます。

左平次は、どのような悪党も拷問に頼らず巧妙な手段で白状させる技量を持ち、“落としの左平次”の異名をとった人物。現在は町人として静かに暮らしていますが、清四郎との出会いを機に再び事件解決に挑むことになります。

清四郎が最初に手掛ける事件は、幸町の紅白粉問屋の女中が首吊り死体で発見されるというもの。自害ではなく他殺と判断した清四郎ですが、捜査は一筋縄ではいきません。厳しくも温かい左平次の指導に、清四郎は反発しながらも少しずつ成長していきます。

心温まる人間ドラマと美味しい料理
第二話「清四郎の恋」では、暴走しがちな清四郎を陰から見守り、時に荒い言葉で突き放しながらも、実は裏でしっかり支える左平次の姿が父親代わりのようで、愛情深く心を打たれます。

また、左平次が行きつけの居酒屋「みくら」では、美人の女将・お香のもてなしや、美味しい酒と料理が癒しのシーンとして描かれています。油揚げとネギを卵でとじた「あぶ玉丼」など、登場する料理にも惹かれました。

ミステリーとしての面白さもさることながら、温かな人間ドラマが魅力の本書。次回作への期待が高まる捕物シリーズです。

今回取り上げた本



書誌情報

落としの左平次
松下隆一
角川春樹事務所・時代小説文庫
2024年11月18日第一刷発行

装画:高杉千明
装幀:芦澤泰偉

目次
第一話 二人の神さま
第二話 清四郎の恋
第三話 千両殺し

文庫書き下ろし
本文281ページ

松下隆一|時代小説ガイド
松下隆一|まつしたりゅういち|脚本家、時代小説・作家1964年兵庫県生まれ、京都市在住。2019年、「もう森へは行かない」で第1回京都文学賞最優秀賞受賞。2020年、授賞作を改題した単行本『羅城門に啼く』で時代小説デビュー。2023年、『侠...