『草莽の臣』|森山光太郎|早川書房
森山光太郎(もりやま・こうたろう)さんの歴史小説、『草莽の臣(そうもうのしん)』(早川書房)をご紹介します。
森山さんは、2019年に『火神子 天孫に抗いし者』で第10回朝日時代小説大賞を受賞してデビュー。同作で第2回細谷正充賞も受賞しました。以来、歴史小説やファンタジー小説を手掛け、注目を集めています。
本書は、白村江の戦い(飛鳥時代)から元寇(鎌倉時代)、唐入り(秀吉の朝鮮出兵)、そして幕末へ――。日本が4度にわたり亡国の危機に直面した際、歴史の裏側で日本を守った益田一族の姿を描く壮大な歴史小説です。
物語のあらすじ
安政六年、長州・須佐湾の浜辺。
ひと月前、江戸伝馬町の牢で処刑された吉田松陰を護れなかった長州藩家老・益田右衛門介親施(ちかのぶ)。彼は、師の仇討ちを誓う高杉晋作、久坂玄瑞、桂小五郎と対峙していました。
「草莽崛起(そうもうくっき)」を掲げ、幕府と朝廷を二分する戦を辞さない三人。列強の介入を招き、多くの民が犠牲になることを防ぎたい右衛門介は、「愚かな歴史を繰り返させない」と静かに語り、一族に秘められた過去の話を紐解き始めます。
白村江の戦いで唐を欺くため、大海人皇子と大友皇子の内乱を画策した中臣鎌足。元寇の犠牲を最小限に抑えるべく、高麗に潜入して諜報活動を行った益田兼久。秀吉の朝鮮出兵で前線に立ち、天下泰平への布石を打った益田元祥――。激動の歴史の中で、益田一族は「戦を起こさぬ才」を命がけで模索してきました。
そして幕末、益田家当主である右衛門介が下した決断は、国難の中でいかなる未来を拓くのでしょうか。壮大なスケールで、4つの物語を紡いだ歴史小説です。
書評
「平穏とは、戦を防ぐための政の首尾」「戦を起こさぬ才こそ必要だ」と語る益田一族の言葉が胸に深く響きます。一度戦が始まれば、止めるためには多大な犠牲が伴う――この普遍的な真理を訴えかける物語は、現代に生きる私たちの胸にも強く訴えかけます。
益田一族が見せた「戦を起こさぬための戦い方」の重要性は、世界のあちこちで争いが続く今だからこそ、より一層共感を呼ぶものがあります。右衛門介が松陰を護れなかった無念とともに、益田家の歴史と深慮遠謀が明らかになったとき、胸が震える感動が押し寄せるでしょう。
本書は幕末小説に留まらず、1500年にわたる日本と朝鮮の関係を俯瞰する壮大な歴史絵巻としても楽しめる一冊です。
今回取り上げた本
書誌情報
『草莽の臣』
著者:森山光太郎
発行:早川書房
初版発行:2024年11月25日
装画:ヤマモトマサアキ
装幀:犬田和楠+Y.S
目次
序章 風濤
第一幕 白村江
間章 撃鉄
第二幕 蒙古
間章 人国
第三幕 唐入り
間章 通
第四幕 禁門
終章 偃武
本文375ページ
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