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千吉親分の文庫屋が火事に。北一が現場で見たものは?

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『気の毒ばたらき きたきた捕物帖(三)』|宮部みゆき|PHP研究所

気の毒ばたらき きたきた捕物帖(三)宮部みゆきさんの時代小説、『気の毒ばたらき きたきた捕物帖(三)』(PHP研究所)を紹介します。

あらすじ・シリーズ概要

まず本シリーズの背景を少しおさらいしてみましょう。

今年の年明け、岡っ引きの千吉親分は河豚の毒にあたり急死。彼の遺志で跡目は継がれず、文庫屋の生業は一の子分・万作が引き継ぎ、子分たちは散り散りに。
文庫屋とは、本や小物を入れる紙の箱で、千吉親分の〈朱房の文庫〉は季節の風物や縁起物が美しく描かれた品です。

幼い頃に迷子になり千吉親分に育てられた北一は十六歳。まだ捕物に関わらず文庫屋を手伝いながら暮らしていました。
彼は冬木町のおかみさんや差配人・富勘に支えられ、富勘長屋で独り立ちして暮らしていますが、岡っ引きになる決意は未だ固まらず、時折親分の代わりに事件解決の手助けをしています。

シリーズ第1巻『きたきた捕物帖』の「第三話 だんまり用心棒」で北一は、深川扇橋町の湯屋「長命湯」の釜焚き・喜多次と出会います。もうひとりの「きた」として登場する喜多次は小柄で貧相ながらも、優れた身体能力と調査力で北一を助け、彼の心強い相棒となります。

第三弾『気の毒ばたらき』の見どころ

本作『気の毒ばたらき』では、岡っ引き見習い・北一とその相棒・喜多次がまたもや難事件に挑みます。

 万作・おたま夫婦が継いだ、千吉親分の文庫屋から火が出た。下手人は、台所女中のお染だというが、北一はその疑いを晴らそうと奔走する。
 一方、火事で焼け出された人々が集まる仮住まいでも事件が――。
 岡っ引き見習いの北一と、謎多き相棒・喜多次の「きたきた」コンビによる捕物帖シリーズ第三弾。

(『気の毒ばたらき きたきた捕物帖(三)』はさみ込みチラシの紹介文より)

その年の霜月半ば、万作とおたまが引き継いだ文庫屋が火事に見舞われます。昼間の火事だったため犠牲者は出ませんでしたが、周辺の家々も延焼を防ぐために壊され、仮住まいが木置場に用意されました。
この火事が放火の疑いありと、本所深川方同心の沢井蓮太郎から告げられた北一は、お染の行方を追うことに。

「火を点けて逃げた女は、お染。万作の文庫屋で、つい三日前まで、住み込みの女中として働いていた。北一も知っているだろう?」
 お染さん。北一は一瞬、向こうずねが疼くのを忘れた。足の甲に当たる丸石の硬い感触を忘れた。お白洲からじんわりと躰ぜんたいにしみ込んでくる冷えを忘れた。
「台所のことを、ほとんど一人で引き受けていた人です。おいら、さんざん飯を食わせてもらいました。

(『気の毒ばたらき きたきた捕物帖(三)』 P.49より)

北一は「お染さんはそんな人じゃねえ!」と信じ、行方を追い始めますが、翌朝、またも不穏な知らせが届きます。仮住まいしていた版木職人の夫婦が虎の子の五十両を胴巻きごと盗まれたというのです……。

本作には、この「気の毒ばたらき」と、未解決のまま二十八年間放置されてきた事件の真相に北一が迫る「化け物屋敷」が収録されています。
登場人物の一人が放つ「解決しない謎は毒だ。身の毒、気の毒、人生の毒になる。だったら偽の解決でも、ないよりはあった方がいい」(P.331)という言葉は本作の深みを象徴しており、ミステリーの魅力を改めて感じさせられます。

本作の魅力

喜多次の登場と犬たち
本作では、喜多次が怪我を負った野良犬・シロを助け、その弟分ブチを手懐けて、と共に行動します。片耳と片目を失ったシロと、小柄で華奢なブチという2匹が「きたきた」コンビに加わり、物語に新たな彩りを添えています。
北一の成長と事件解決の妙味
小柄で痩せて薄毛、気弱で頼りない一面も持つ北一は、捕物帖史上最弱ともいえる探偵役ですが、周囲の人々に支えられながら事件解決に挑み、その成長が痛快で見応えがあります。
「ぼんくら」シリーズとのリンク
本作には「ぼんくら」シリーズ(講談社文庫)でおなじみのキャラクター、三太郎も登場し、北一の調査を助けます。シリーズファンにはたまらない見どころです。

作品詳細

気の毒ばたらき きたきた捕物帖(三)

宮部みゆき
PHP研究所
2024年10月29日第1版第1刷発行

装幀:こやまたかこ
画:三木謙次

●目次
第一話 気の毒ばたらき
第二話 化け物屋敷

本文475ページ

初出:
「気の毒ばたらき」 月刊文庫「文蔵」(2022年9月号~2024年1・2月号)に連載されたものを加筆修正したもの。
「化け物屋敷」は書き下ろし。

宮部みゆきの描く江戸の町で、成長する北一と喜多次の「きたきた」コンビがまたも難事件に挑みます。シリーズのファンはもちろん、初めての方も楽しめる、心に栄養を与えてくれる捕物帖シリーズです。

■今回取り上げた本



宮部みゆき|時代小説ガイド
宮部みゆき|みやべみゆき|時代小説・作家 1960年、東京生まれ。 1987年、「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。 1992年、『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞を受賞。 199...