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長屋の住人に振る舞われる、夢と思いが詰まったご馳走の味

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『ごんげん長屋つれづれ帖(九) 藪入り飯』|金子成人|双葉文庫

ごんげん長屋つれづれ帖(九) 藪入り飯金子成人(かねこ・なりと)さんの文庫書き下ろし時代小説、『ごんげん長屋つれづれ帖(九) 藪入り飯』(双葉文庫)は、長屋人情シリーズの第9弾です。

以前、双葉社のWebサイト「COLORFUL」に、この長屋の人々の温かい人情が心に響くシリーズ第1巻、『ごんげん長屋つれづれ帖【一】 かみなりお勝』のレビューを書かせていただきました。

長屋の人情、親子の情、溢れる情けが胸に沁みる! 数々の名時代劇を手がけた大物脚本家が送る、心温まる人情譚!! 『ごんげん長屋つれづれ帖【一】 かみなりお勝』金子成人|ブックレビュー|COLORFUL
大河ドラマ『義経』など、数々の人気作品を手がけた金子成人氏が送る、根津権現門前町の裏店を舞台にした人情シリーズ第1弾。最新刊の第6弾『菩薩の顔』も大好評の、「ごんげん長屋つれづれ帖」シリーズの魅力とは!?

では、第9巻『藪入り飯』はどのような物語でしょうか。

お勝の娘お琴と因縁が深いおひわを助けたことがきっかけで、『ごんげん長屋』の新たな住人となったお栄。料理屋『喜多村』の台所女中としての勤めぶりも評判がよく、長屋の皆ともすっかり打ち解けたお栄が、正月十六日に長屋の皆に料理を振る舞いたいという。「藪入り」の長屋を賑わす『葱飯』のお味やいかに――!? くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る、大人気シリーズ第九弾!

(『ごんげん長屋つれづれ帖(九) 藪入り飯』カバー裏の紹介文より)

文政三年(1820)一月十五日は小正月と呼ばれ、朝が米と小豆を炊いた粥を食べる習わしがありました。その日の夜、ごんげん長屋の住人たちは大家の伝兵衛の家に来てくれと言われました。

長屋のみんなに集まっていただきたいと大家に頼んだのは、新しく長屋の住人となったばかりの、料理屋『喜多村』の女中となったお栄でした。

「明日の藪入りは、料理屋『喜多村』さんも休みになります。なので、わたしは明日、『葱飯』という食べ物をこしらえて、長屋のみなさんの昼餉にしていただきたいと思いつきました。
 お栄のその思いつきには、軽いどよめきが起こった。
「長屋のみんなに食べていただき、味の良し悪しを伺いたいのです。不味いなら不味いとか、何かが足りないならこうした方がいいとか、そんな声を聴きたいのです」
 言い終わると、お栄は再び頭を下げた。
 
(『ごんげん長屋つれづれ帖(九) 藪入り飯』 P.41より)

ややこしい経緯からごんげん長屋に住むことになったお栄は、将来食べ物屋を開きたいという思いもあって、住むところと働き先を紹介してくれた長屋のみんなにご馳走したいというのです。

奉公人が休みをもらえる藪入りの日に、お勝をはじめ長屋のみんながお栄を手伝って、『葱飯』をつくり、みんなで食べていく場面を読んでいて、ほっこりとした気分に浸りました。
また、お栄がつくる『葱飯』は、炊いたご飯に、甘辛く煮た葱と刻んだ椎茸、油揚げ、生姜が入り、焼いた鯵の身をほぐしてまぶすという凝ったものでおいしそう。今後つくってみたいと思いました。
子どもたちにとっても、一生の思い出になる出来事になったでしょう。
(第一話 藪入り飯)

本書では、「藪入り飯」のほかに、お勝が番頭としてつとめる質舗『岩木屋』の蔵番の茂平と、その恋人で谷中七面坂で『ふくべ』という居酒屋を営むおつうとその息子富太郎の微妙な関係を描いた「なさぬ仲」、『岩木屋』が旗本家に損料貸しをした軍荼利明王像をめぐる騒動を綴った「初午騒動」、ごんげん長屋の住人で町小使(町飛脚のこと)の藤七の客で死病に罹った男が打ち明けた話とは?(「春宵夜話」)の四編を収録しています。

いずれも、ごんげん長屋の人たちの人情ばかりか、生活の中に自然に取り入れられた四季の行事や風習も描かれていて、江戸情緒も堪能できます。ひと時の江戸旅行はいかがでしょうか?、

お栄という魅力的なキャラクターが加わり、今後の物語の展開に幅が出てきて、ますます楽しみになりました。

ごんげん長屋つれづれ帖(九) 藪入り飯

金子成人
双葉社・双葉文庫
2024年9月14日第1刷発行

カバーデザイン:寒水久美子
カバーイラスト:瀬知エリカ

●目次
第一話 藪入り飯
第二話 なさぬ仲
第三話 初午騒動
第四話 春宵夜話

本文285ページ

文庫書き下ろし。

■今回取り上げた本


金子成人|時代小説ガイド
金子成人|かねこなりと|時代小説・作家 1949年、長崎県生まれ。脚本家。 1997年、第16回向田邦子賞を受賞。 2014年、『付添い屋・六平太 龍の巻 留め女』で、時代小説デビュー。 ■時代小説SHOW 投稿記事 八丈島から島抜け。兄を...