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捕物名人の八丁堀同心、今度のタイムスリップ先は「関ケ原」

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『蟷螂の城 定廻り同心 新九郎、時を超える』|山本巧次|光文社文庫

蟷螂の城 定廻り同心 新九郎、時を超える山本巧次(やまもと・こうじ)さんの文庫書き下ろし時代小説『蟷螂の城』(光文社文庫)をご紹介します。本書は「新九郎、時を超える」シリーズの第3弾です。

実は私(理流)は、本書の巻末解説を執筆させていただきました。ぜひ手に取って読んでみてください。

さて、第1作の『鷹の城』では、織田信長が天下布武を目指した時代を描き、第2作の『岩鼠の城』では豊臣秀吉政権下の出来事が描かれています。
第3弾ではどの時代にタイムスリップしたのでしょうか?

江戸南町奉行所の同心・瀬波新九郎は豊臣秀吉の時代から江戸に戻り、許婚・志津との祝言を控えていた。そんな折、志津の父に問題が持ち上がり祝言どころではなくなり、新九郎はまたも時空を超えることに。今度の行き先は「関ヶ原」。大戦直後の地で新九郎は落ち武者狩りに捕まってしまうことに……。「八丁堀のおゆう」著者の人気シリーズ、文庫書き下ろしの第三弾!

(『蟷螂の城 定廻り同心 新九郎、時を超える』カバー裏の紹介文より)

祝言まであと半月、江戸南町奉行所の定廻り同心・瀬波新九郎は、許嫁・志津の伯父、上谷畿兵衛から「家に来てくれ」との伝言を受け取ります。奉行所の務めを終え、畿兵衛の家を訪れると、志津もそこにいて、畿兵衛はこれまでにない険しい顔で、志津の父、畿三郎が難事に巻き込まれ、御役を解かれるかもしれないと言います。

作事奉行のもとで被官を務める畿三郎の脇差には、徳川の仇敵である石田三成と島左近の家紋が刻まれており、家宝として代々伝わるものが、何者かによって将軍家への不敬と讒言され、謹慎を命じられてしまったのです。

しかし、この脇差が誰から拝領されたのか、なぜ上谷家にあるのか、誰も知らず、記録も残っていません。

新九郎はまず、畿三郎を讒言した可能性のある作事下奉行の一人、飯島達之輔の身元を調べることに。

ところが、神田明神で参拝後、石段を下りようとした時、何者かに背中を押され、暗い奈落へと突き落とされてしまいます。
気がつくと、江戸の町並みは消え、まるで合戦の後のような光景が広がっていました。

(何だ、これは。まるで、合戦の後じゃねえか)
 それにしても、どこなんだ。いつの、何の合戦なんだ。心の中で、何度も繰り返して問うた。叫び出したい気分だった。
 しかし、心のどこかではわかっている気がした。前の二度、自分が二百年以上も前の戦国の世に飛ばされたのは、ちゃんと理由があった。全ては、先祖に関わることだ。先祖の危難を救う。どこの神様の仕業か知らないが、そういう役目を割り振られたのだ。そして二度とも、何とかうまく立ち回ることができた。こいつが三度目の正直とするなら……。
 
(『蟷螂の城 定廻り同心 新九郎、時を超える』 P.49より)

なんと、新九郎が時を超えた先は関ヶ原。そして、合戦の直後の時代でした。
新九郎はとりあえず髻(もとどり)を切り、自分で茶筅(ちゃせん)風に髪を後ろで適当にまとめます。

スカイエマさんの装画のイメージの通りです。
江戸と戦国時代の髷(まげ)の結い方が全く違っていて、面白いところです。
現代から見れば、同じちょんまげの時代に見えますが、実は髷の結い方や着物の柄、形が大きく異なっています。

新九郎は近隣の村人による敗軍の落ち武者狩りに気をつけて行動していましたが、二十歳前後の大柄な若い侍に見つかり、何者かと問いただされます。
新九郎は、宇喜多家の家臣の縁者で、東軍に加わっていない大名の家臣だと答えます。
すると、弁之助と名乗る若者が「俺が手を貸すから一緒に捜さぬか」と提案し、二人で落ち武者狩りの村人に捕まってしまうことに……。

このシリーズの魅力は、江戸時代の最先端の捕物術を持つ新九郎が、戦国時代という捜査技術の未発達な時代にタイムスリップし、その卓越した洞察力と合理的な推理で事件を解決していくところにあります。
事件を解決することで、時の権力者の期待に応え、ひいては先祖の危機を救うという展開が、物語の面白さを一層引き立てます。

さらに、このシリーズには志津のご先祖・奈津というヒロインが登場し、新九郎との時を超えた心のつながりも見逃せません。

「八丁堀のおゆう」シリーズ同様、このタイムスリップものでも歴史を変えることはできないルールがあり、それが物語を面白くしています。
新九郎が時を遡ったのは、歴史を変えずに「危機」を救うため。その危機を解決しなければ、新九郎は元の時代に戻れません。事件を解決すれば江戸に戻れるという設定が、タイムスリップものの醍醐味です。
新九郎の戦国時代での時を超えた活躍を楽しんだばかりですが、今後の展開にも大いに期待しています。

蟷螂の城 定廻り同心 新九郎、時を超える

山本巧次
光文社・光文社文庫
2024年9月20日初版1刷発行

カバーデザイン:Fieldwork(田中和枝)
カバーイラスト:スカイエマ

●目次
序 慶長五年九月十五日 関ケ原
蟷螂の足掻く城
幕 慶長五年九月二十日 大津城
解説 理流

本文306ページ

文庫書き下ろし。

■今回取り上げた本



山本巧次|時代小説ガイド
山本巧次|やまもとこうじ|時代小説・作家1960年、和歌山県生まれ。中央大学法学部卒業。鉄道好きで、長年鉄道会社に勤務した経歴を持つ。2015年、第13回「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉となった『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』でデ...