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連続殺人犯はサイコパス? 夏希は心理学を駆使して犯人迫る

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『脳科学捜査官 真田夏希 ブリリアント・アイボリー』|鳴神響一|角川文庫

脳科学捜査官 真田夏希 ブリリアント・アイボリー鳴神響一(なるかみきょういち)さんの人気警察小説シリーズの第22弾、『脳科学捜査官 真田夏希 ブリリアント・アイボリー』(角川文庫)は、神奈川県警の心理職特別捜査官・真田夏希の心理学の知見と洞察力、捜査官としての魅力が堪能できる警察小説です。

茅ケ崎の海水浴場で若い女性の撲殺死体が発見された。遺体の額には「M」の文字が刻まれ、強い憎悪が感じられた。神奈川県警の心理職特別捜査官の真田夏希は、犯行声明を出した「波夜人(はやと)」との対話を試みるが、彼の要求に衝撃を受けてしまう。彼は被害者の犯した「罪」を公表しろ、さもなくば、次の殺人を犯すというのだ。夏希は、犯人との対話の重さに責任を感じるが、事態は悪化してしまうだ――。書き下ろし長篇警察小説。

(『脳科学捜査官 真田夏希 ブリリアント・アイボリー』カバー裏の紹介文より)

八月末の早朝、サザンビーチちがさき海水浴場で若い女性の撲殺死体が見つかりました。
派手なメイクで、ぱっと見の雰囲気は水商売に見える遺体の額には、刃物でつけたような「M」の文字が残されていました。
すると、その日の午前8時半過ぎに、波夜人(はやと)と名乗る犯人から犯行声明があり、被害者は横浜のキャバクラで働くキャバ嬢・森かずみだと明かしました。

江の島署に捜査本部ができ、夏希も呼ばれました。犯行メッセージを送ってきた犯人と対話をして、その性格や心理を把握して捜査に役立てるためです。

捜査本部内には、犯行声明の稚拙で荒っぽい文体から、半グレなどの反社勢力の犯行を疑っている人もいます。
夏希は偽装している可能性も考えられ、いくつかメッセージをやり取りしないとわからないと答えて、チャットによる対話を始めました。

 ――オメーがかもめ★百合とかいう女か。ツィンクルで知ってるよ。俺はオメーみたいなムカつく女は嫌いだが、別に殺しゃしねぇ。だけどなクソ女は殺す。いいか、森かずみはとんでもないワルだ。次の罪状を公開しろ。今日の午後五時までだ。警察が公表しないなら、また女を殺す。いいな、絶対に公表するんだぞ。

(『脳科学捜査官 真田夏希 ブリリアント・アイボリー』P.53より)

波夜人は、森かずみが結婚するといって男をだまして一千万円以上を巻き上げ、その男は振り込め詐欺を働いて七年の実刑になり刑務所で服役中という罪状を挙げて、公表せよと迫りました。
そして、「警察の名前で五時までに公表しなければ、明日の朝、神奈川の北の林で次のクソ女の死体が見つかる」と、夏希との対話の中で、次の犯行を予告しました。

犯人・波夜人からの衝撃の内容に夏希は大きく動揺しました。
被害者の罪状を提示したり、その公表を強いて応じなければ次の犯罪を実行すると言ったりするメッセージは初めて扱います。

夏希は対話を通じて、犯人の手掛かりを掴めるのでしょうか?
波夜人による、殺人は予告通りになされるのでしょうか?

本書は、シリーズの中でももっとも夏希の対話能力が発揮され、心理学の用語がバンバン出てきます。

しかも、半グレを想起させていた波夜人が、次々にメッセージの文体を変えていき、ASPD(反社会性パーソナリティ障害)やサイコパス(専門用語ではなく、定義もあいまいで誤用されることも多いので、物語中では夏希は使用を避けている)の疑いも出てきて……。

シリーズを通じて警察官として成長してきた夏希が、原点である心理職特別捜査官として職能をフルに発揮する活躍ぶりに、どんどん引き込まれていきます。
終盤近くまで、犯人の想像がつかない展開も面白くて、犯罪心理に重点を置いた捜査劇にすっかり魅了されました。

脳科学捜査官 真田夏希 ブリリアント・アイボリー

鳴神響一
KADOKAWA 角川文庫
2024年8月25日初版発行

カバー写真・デザイン:舘山一大

●目次
第一章 波夜人
第二章 モテ女の悲劇
第三章 悪女の裁き
第四章 観客なき終章

本文255ページ

文庫書き下ろし

■今回取り上げた本


鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■時代小説SHO...