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吉原を狙う悪い奴らを成敗せよ。大芝居を成功すれば、控櫓に

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『圧殺 御裏番闇裁き』|喜多川侑|祥伝社文庫

圧殺 御裏番闇裁き喜多川侑(きたがわゆう)さんの文庫書き下ろし時代小説「御裏番闇裁き」シリーズの第2弾、『圧殺 御裏番闇裁き』(祥伝社文庫)を紹介します。

前作『瞬殺 御裏番闇裁き』で、鮮烈な時代小説デビューを果たした著者。
芝居小屋『天保座』を舞台に、芝居者たちが表の顔とは別に将軍家斉直属の「御裏番」をつとめ、幕府転覆をはかる者たちを密かに退治する物語は、華やかで外連味がある痛快な時代小説です。

大金をせしめた騙り浪人を追って、吉原に潜伏した南町奉行所の影同心が殺された。奉行筒井政憲は、芝居小屋天保座こと「御裏番」に探索を指令。花形役者瀬川雪之丞が影同心のいた妓楼に入り込む。だが、吉原では小火騒ぎ、建物の崩壊、奉公人の失踪と事件が頻発し、遊廓は窮地に。暗躍する者の正体を掴んだ雪之丞らは、黒幕ともども葬る、とてつもない作戦を考える。

(『圧殺 御裏番闇裁き』カバー裏のの紹介文より)

天保八年(1837)大晦日。
南町奉行所の影同心の木下英三郎は、ある騙り浪人を探し出すために、ひと月半前から吉原の妓楼艶乃家に妓夫として潜り込んでいました。
影同心は、隠密廻り同心の中でも、奉行所や組屋敷内でもその存在を明かされていない、奉行直轄の市中潜伏同心です。

艶乃家への潜入は、江戸市中で頻発している骨董品詐欺に関わった騙り浪人大杉勘九郎を探し出すためでした。
このひと月半で、艶乃家に匿われている勘九郎(店では偽名・松野歳三を名乗っている)を発見しただけでなく、吉原にまつわるさまざまな陰謀も見えてきたところ。最後の詰めで、騙り浪人を吉原の外に連れ出せれば、年明けには家族のもとへ帰れるはずです。

吉原の中のことは吉原の者が始末するが吉原の不文律のため、吉原の外を連れ出すまでが影仕事で、妓夫の英太こと、英三郎は、浅草並木町の名代の蕎麦屋で年越しそばを食べようと誘い、浪人を連れ出すことに成功しました。
あと数歩で蕎麦屋というその瞬間、英三郎は何者かに路地に連れ込まれ、勘九郎はもう一人の誰かに真横から脇腹辺りを匕首で刺されました。

 路地裏で闇討ちにするなんざ、聞いていない。
 芝居好きでなおかつ粋でならす筒井政憲がそんな筋書きを描くはずがないのだ。
「英太、謀ったな」
 喋るのも苦しげであったが、それでも勘九郎は武士らしく差し料を抜いた。到底、人など斬れそうにない錆びた刀だった。
「歳三さん、それは違う。おいらも驚いている」

(『圧殺 御裏番闇裁き』 P.33より)

奉行所の捕り方に取り押さえられるはずだった勘九郎の口が何者かによって封じられ、英三郎も殺されてしまいました。

天保九年(1838)正月四日。
内与力から英三郎の死の報告を受けた南町奉行・筒井政憲の姿は、西の丸にありました。大御所・徳川家斉に面会を請い、吉原に御庭番が潜伏しており、陰謀の恐れありと告げました。

「御庭番には御裏番をぶつけたいとな?」
 家斉が上半身を前に倒して、好奇心丸出しの顔をした。御裏番は西の丸に退いた家斉が、筒井に組織させた闇裁き集団である。
「はい」
 筒井はひれ伏した。
「なにゆえ、そこまで言う? それといちいちひれ伏すな」
 大御所の目が鋭く光る。
「吉原は日本橋、芝居町と並ぶ『一日千両』の町。大御所様の金城湯池でなければなりません。誰かが、ここに手を突っ込んできたかと」

(『圧殺 御裏番闇裁き』 P.50より)

西の丸に退いても家斉は、本丸に不審な動きがあると感じていて、筒井に、御裏番を好きに使い、吉原の内情をしっかり検めよと、命を下しました。

天保座の座元・東山和清は、元南町奉行所隠密廻り同心で、三年前、許嫁の不慮の死をきっかけに『御裏番』へ転身し、芝居小屋を装った闇の仕置き人になっていました。

正月八日、呼び出しを受けて、柳橋の料亭に出向いた和清は、筒井から影同心・木下英三郎が探索していた内容と殺されたことについて話を聞きました。
そして筒井が書いた筋書き『吉原顔見世花見踊り』に沿って、吉原全域を舞台に見立てた大芝居を始めます。

大芝居を無事成し遂げれば、官許三座共通の控櫓への昇格という餌もぶら下げられて、天保座の面々の力が入ることも必定です。

和清を頭に、看板役者の瀬川雪之丞、二番手役者の団五郎、元噺家で老役者の羽衣家千楽、元大工で大道具担当の半次郎、千楽の娘で結髪のお芽以、元御庭番で家斉の隠し子、天保座では大道具補佐のなりえら、闇の仕置き人たちがみな特技を生かして、それぞれの役になりきって演じる、ワクワクの大芝居。一瞬たりとも目が離せません。

幕閣を巻き込んむ天保座の大芝居の筋書きに、まさかの大御所家斉も乗ることになり……。

第1作『瞬殺』よりも、さらにスケール感とエンタメ度が爆上がりしています。サスペンスの後に、スカッとすること請け合い。まさに千両役者といったところ。

艶乃家の楼主・松太郎、遣り手・お京、女郎の松絵、大店の手代を装った玉助と末三の二人組ら、登場人物もしっかりと描かれていて、面白い芝居を観た後の満足感が得られました。
第3作の『活殺 御裏番闇裁き』も楽しみです。

圧殺 御裏番闇裁き

喜多川侑
祥伝社・祥伝社文庫
2024年1月20日初版第1刷発行

カバーデザイン:中原達治
カバーイラスト:大前壽生

●目次
第一幕 年越し蕎麦
第二幕 顔見世大興行
第三幕 吉原雪景色
第四幕 楼主の境涯
第五幕 旗本の内情
第六幕 陰謀の輪郭
第七幕 大芝居幕開け
第八章 春の総崩れ

本文379ページ

文庫書き下ろし

■今回取り上げた本



喜多川侑|時代小説ガイド
喜多川侑|きたがわゆう|時代小説・作家 青山学院大学卒業。 2013年、別名義で現代もの文庫書き下ろしを多数発表する。 時代小説SHOW 投稿記事 →喜多川侑の本(Amazonより) ⇒時代小説作家リストへ戻る