『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜7 哀愁のウルトラセブン』|鳴神響一|幻冬舎文庫
子どものころに、『ウルトラセブン』が好きで毎週欠かさずに見ていた記憶がありましたが、そのストーリーをどこまで正確に理解していたのか、今から考えると実に怪しく思い返されます。
というのも、鳴神響一(なるかみきょういち)さんの『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜7 哀愁のウルトラセブン』(幻冬舎文庫)では、特撮ヒーローもののレジェンドである「ウルトラセブン」がテーマになっていて、昔懐かしい『ウルトラセブン』の世界をたどることができます。
さて、本シリーズでは、神奈川県警刑事部刑事総務課の捜査指揮・支援の専門捜査支援班に所属している、細川春菜は、女子高生と見まごう童顔の美人警察官。専門知識を持った民間の捜査協力員=「ヲタク」の知識を借りて、難解な殺人事件の謎を解く、というストーリー構成が実にユニークです。
これまでも鉄道、温泉、アニメ、テディベア、クラシックカー、万年筆というその分野のヲタクたちが登場して、豊富すぎる専門知識でときには春菜を翻弄しながらも、難事件を解決に導く重要な手がかりをもたらしてくれます。
特撮番組のロケで特技監督がカメラクレーンの誤作動で死亡した事件は、プログラムへの不正侵入による殺人と判明。現場に落ちていた樹脂カプセルと、プログラムへの「ミクラスの恨みを知れ」という書き込みが共にウルトラセブンに関連することから、細川春菜は特撮ヲタクの捜査協力員への面談を開始する。浮かび上がった意外な犯人像とは?
(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜7 哀愁のウルトラセブン』カバー裏の紹介文より)
七月七日、相模原市の《さがみ湖リゾートプレジャーフォレスト》で、子ども向け特撮テレビ番組「電撃ミラクルレンジャー」のロケ中に、撮影に使っていたカメラクレーンが誤作動をして、特技監督の相木昌信の頭部に直撃して死亡する事故が起こりました。
当初事故と思量されていましたが、何者かによるコンピュータ制御のプログラムへの不正侵入によるもので殺人事件として捜査本部が設けられました。
と現場にカプセル怪獣のレプリカや改変されたプログラムに書き込まれた「ミクラスの恨みを知れ」というメッセージから、『ウルトラセブン』に関連があると考えて、春菜は特撮ヲタクの中から『ウルトラセブン』に詳しい4人の捜査協力員と面談のアポを取りました。
21歳の大学生平田光矢、33歳のアパレル関連の専門商社に勤める会社員矢野紗也香、57歳の家具デザイン会社の社長佐々部祐一、34歳の会計事務所で働く事務員渡瀬明銓の4人です。
「あの場所は『ウルトラセブン』のロケ地なんですよ!」
つばを飛ばして平田は答えた。
「本当ですか!」
葛西が叫び、春菜と康長は顔を見合わせた。
捜査本部ではそんな情報は把握できていなかった。
「ええ……第三九話と第四〇話の『セブン暗殺計画』前後編のロケで何カ所かが使われています。(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜7 哀愁のウルトラセブン』P.73より)
最初に話を聞いた捜査協力員の平田は、犯行現場が『ウルトラセブン』のロケ地であることを説明し、現場への同行を希望しました……。
本シリーズの魅力の一つは、捜査協力員(ヲタク)たちの専門知識を組み合わせて、その分野では門外漢の春菜が事件を推理していくところ。今回も捜査本部が想像だにしない方向から解決の糸口をつかんでいきます。
また、今回は、制作側と視聴者側という立場の違いによる製作意図の理解にフォーカスを当てています。
これはドラマに限らず、文芸や絵画などの創作物でも起こりうることであり、受け手は作品をどのようにも理解することは可能ですが、SNSを含めて公に発信する際には独りよがりにならず、製作者側の意図にも配慮することが重要であることに気づかされました。
今後、書評を書く際には、このことを肝に銘じたいと思います。
本書を読んで、『ウルトラセブン』の面白さが伝わってきて、半世紀以上経っても多くの人を魅了してやまない秘密がわかりました。
ドラマを見たときは、幼くてディテールまで全然わかっていなかったにもかかわらず、十分面白かったという記憶が残った、このドラマのクオリティの高さにも驚嘆させられました。
田中寛崇さんの表紙装画では、巨大化した春菜が描かれていて、このシリーズのファンのヲタク心をくすぐります。
次はどんなヲタクたちに出会えるのか、今から楽しみです。
神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜7 哀愁のウルトラセブン
鳴神響一
幻冬舎 幻冬舎文庫
2024年7月15日初版発行
カバーデザイン:舘山一大
カバーイラスト:田中寛崇
●目次
第一章 ミクラスの恨み
第二章 ノンマルトの海
第三章 ポストモダニズムの丘
第四章 ウルトラの星
本文240ページ
文庫書き下ろし
■今回取り上げた本