『義妹にちょっかいは無用にて(3)』|馳月基矢|双葉文庫
馳月基矢(はせつきもとや)さんの時代小説シリーズ、『義妹にちょっかいは無用にて(3)』(双葉文庫)を紹介します。
刊行時(2024年4月)に読んだのですが、バタバタしていてアップできず、時間が空いたので再読しました。
本書は、『拙者、妹がおりまして』の主人公白瀧勇実の手習所を手伝っていた若者大平将太と、長崎から単身やってきて大平家の養女となった美少女理世の若い二人の日常と恋を描いた青春小説です。
作品に描かれているのは、蠣殻町の土浦藩上屋敷で鼠小僧された年、文政八年(1825年)。
ひたすらに恋い募ってくるおれんに戸惑うばかりの将太。おれんと義妹の理世たちとで、花菖蒲を見に行くことに。そこでおれんから「色恋がわからなくったっていいから、あなたをあたしにちょうだい」と正面から告白される。
――いや、俺は恋を知っている。心を殺しているだけだ。一方の理世もその日、小さな事件によって自分の気持ちを理解した。血がつながらないとはいえ、こんな想い、あってはならない……将太にすがりつきたい衝動を、理世は必死に抑え込む。にわかに背徳感が蠢き始める禁断の第3巻!(『義妹にちょっかいは無用にて(3)』カバー裏の内容紹介より)
大平将太は、浅原直之介の屋敷で、山崎の霖五郎や大平家の下男の吾平ら気の置けない仲間とともに新年を迎えようということになりました。
曙光が、ぱっと、連なる甍の波を照らした。
大平将太は、まばゆさに目を細めた。
隣で、妹の理世が白い息とともに華やいだ声を上げた。
「新しい年の始まりね。将太兄上さま、明けましておめでとうございます!」
将太は理世の愛らしい笑顔を見下ろし、笑みを返す。
(『義妹にちょっかいは無用にて(3)』P.9より)
なぜか理世も加わり、直之介の屋敷の屋根に上がって、初日の出を見て、新年のお祝いを言いました。
素晴らしい一年の始まり。
将太は、二つ年下の理世に恋していることに気づきながらも、義理とはいえ兄妹なので、その感情を決して表に出してはならないものです。今年こそは己の中でけじめをつけなければ、必ずや想いの断ち方を見出さなければ、と思うのでした。
前の「拙者、妹がおりまして」シリーズから、新年の始まり、初日の出を登場人物たちが見るという場面が度々描かれ、そこでは事件や騒動が起きていました。ファンにとっては恒例の初日の出シーンで、楽しみの一つです。
花の季節、将太と理世は、理世の許婚になるかもしれない旗本家の諸星杢之丞から上野・清水観音堂の桜見物に誘われました。
杢之丞の兄で、理世の元の結婚相手だった才右衛門とその許婚の鹿島由良も加わり、にぎやかで楽しいひと時でしたが……。
花見の話を聞いた、呉服商芦名屋の一人娘おれんはなぜ自分も誘ってくれなかったのかと将太は責められました。どうしたらいいかわからず謝ってばかりいる将太に、理世は上野の桜におれんを誘えばいいと。
律儀に理世の助言に従った将太に、おれんはひとまず満足し、向島の桜、亀戸の藤、染井のつつじと次の約束を持ち出してくるのでした。
「ああもう、歯痒か」
理世はナクトをつかまえて、ぎゅっと胸に抱きしめた。つやつやの毛並みに鼻をこすりつける。
何がこんなに腹立たしいのだろう? 気が気でないのはなぜだろう?
おれんは美人だ。死に装束のような白い着物ばかり身にまとう変わり者だが、それが似合ってしまうという、妖しい魅力がある。
(『義妹にちょっかいは無用にて(3)』P.192より)
理世が本音を漏らせるのは、長崎から連れてきた愛猫のナクトだけ。
おれんは、理世や杢之丞も誘って花菖蒲を見に行こうと、将太に告げます。
その日、堀切村に、将太、理世、おれん、おれんの付添いで奉公人四人、杢之丞と才右衛門の諸星兄弟が集いました。
そして花菖蒲見物をはじめます。
将太とおれん、理世と杢之丞の二組のカップルの恋の行方に、招かれざる客も現われて……。
王道の恋愛ものでは、「まだるっこしい」というのが大切ですが、本書もその想いが堪能できます。若者たちの青春群像に癒されるとともに、今後の展開がますます気になりました。
また、将太や尾花琢馬、次郎吉とと手習所勇源堂の筆子たちとの交流も描かれていて、少年たちのやんちゃさと大人びた振る舞いに心躍ります。
義妹にちょっかいは無用にて(3)
馳月基矢
双葉社 双葉文庫
2024年4月13日第1刷発行
カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:Minoru
●目次
第一話 一年の計は
第二話 鼠ではなく、蝙蝠
第三話 花は桜木
第四話 あやめも知らぬ
本文238ページ
文庫書き下ろし
■今回取り上げた本