『陰陽師と桜姫』|あすみねね|小学館文庫キャラブン!
あすみねねの文庫書き下ろしキャラクター文芸作品、『陰陽師と桜姫』(小学館文庫キャラブン!)を紹介します。
著者は、葛飾北斎に拾われた娘と鶴を斬った武士の愛を描いた、ファンタジー時代小説『鶴を斬った男』(つむぎ書房)で注目の新進作家です。
今回は、小学館文庫のキャラクター文芸を扱うレーベルである、「小学館文庫キャラブン!」から、和風ファンタジーを上梓しました。
異能が栄える三大国――上河(じょうが)、貴陽(きよう)、玉兎(ぎょくと)は、陰陽師や方術士の一族が支配する土地。ある時、上河の森に黒い花弁の“咒桜(じゅざくら)”という個体が現れた。この桜は玉兎の方術士・有翠(ありすい)が作り出したものだが、そこには咒桜が子を生むようになり、世界の均衡は崩れた。陽桜李(ひおり)は咒桜から生まれた“桜姫”だ。養父の美春(みはる)は桜の森で彼女を拾った陰陽師で、貴陽の支配者一族の次期当主とも目される男だった。人を凌駕する身体能力と生命力を備えた陽桜李は、得意の武術をきわめ、仲間と共に咒桜の呪いを解く旅に出るが……。新感覚・和風ファンタジー!!
(『陰陽師と桜姫』カバー裏の紹介文より)
上河には、不思議な黒い桜“咒桜”がありました。
ある日、咒桜に、怨念を持ったとある人間の女が取り込まれ、桜と呪いが一体化しました。それから上河では、作物は育たず疫病が流行り、民たちは呪いを恐れて貴陽と玉兎に逃げ去り、一気に衰退し、滅びへと向かいました。
その日、咒桜は一人の少女を生みました。
華やかな黒髪に、漆黒の着物をまとったイケメンの男がその少女を抱き上げました。
「俺の名前は美春。お前の名は――陽桜李」
「ううー、ううー?(ヒオリ?)」
「太陽の下で、桜の木から生まれた李のような娘」
陽桜李。少女――陽桜李は心の中で呟いてみた。ヒオリ、ひおり、陽桜李。何だか素敵な名前。
(『陰陽師と桜姫』 P.8より)
美春と名乗った男は、上河で陰陽師をしていました。
陽桜李は、生まれた時から知能があり、この国が上河で、自分の性別は女であることなど幼子にしては理解していました。そして、短期間で成長していきます。
上河の民たちは、陽桜李を国を救う“救世主”とあがめ、その誕生を喜びました。
美春には陽桜李のほかに息子が二人いて、陽桜李は彼らを兄と慕いますが、それぞれ誰一人として美春とは血が繋がっていません。実は美春は貴陽の陰陽師一族の次期当主と目されるほどの人物ですが、陽桜李にはただ不器用で優しく美しい、誰よりも大切な父としか思えなくて……。
「でも他に、どうやって上河を救うの? 綺麗事で国って救える?」
陽桜李の問いは氷のように冷たく、気勢をそいだ。
「お兄様はずっと平和な貴陽の学校にいて感覚がずれているんだわ。私、生まれてすぐ、初めて目の前で死人を見たの。黒く炭になった男の弟は、兄の後を追って自害しようとした。上河で満足に食事ができて、上等な着物を着られるているのは、この屋敷の人たちだけ。私は上河の民全員がそうなってほしい。だったら咒桜の呪いを解くために戦をしなきゃいけない」
(『陰陽師と桜姫』 P.82より)
人よりも高い身体能力と生命力をそなえた陽桜李は、“蒼夜叉”と呼ばれた伝説の侍の弟子になり、武術を学び、家族とともに咒桜の呪いを解く旅に出かけることに……。
桜の花が黒かったら、桜の印象が全く違って感じられるでしょう。
暗いだけでなく、不吉さやおどろおどろしさすら感じてしまうはず。
黒い桜から生まれた姫君(桜姫)や貴陽の出身という陰陽師(美春)の秘密と、呪術と愛と冒険が詰まった想像力豊かな物語を堪能しました。
最初陰陽師の美春のほうが冒険の旅に出るストーリーだと思っていたら、桜姫(陽桜李)のほうが剣の優れた使い手となって、黒い桜(咒桜)の呪いを解くということで、成長の速さに驚きながらも、素直にカッコいいなあと見惚れてしまいました。
“紅涙刀”を手に、愛に突き進み、運命を切り拓く、新しいヒロインの誕生です。
ライト文芸の一ジャンルであるキャラクター文芸は、架空の世界観やキャラクター造形などに特徴があります。設定のユニークさと自由度も魅力。
固くなっていた時代小説脳が、柔らかく解きほぐされていきます。
陰陽師と桜姫
あすみねね
小学館・小学館文庫キャラブン!
2024年5月25日初版第1刷発行
カバーデザイン:須貝美華
カバーイラスト:由羅カイリ
●目次
第一章 黒い桜の木から生まれた娘
第二章 水色の侍“蒼夜叉”
第三章 呪いが解ける時
第四章 母と姉
第五章 四人の侍
最終章 陰陽師と桜姫
本文253ページ
文庫書き下ろし
■今回紹介した本